歴史や伝統文化に囲まれ、和みの古都に籠る贅沢
聖徳太子が飛鳥から移り住み、斑鳩宮を造営したという斑鳩の里。世界文化遺産、法隆寺などの仏教建造物をはじめ多くの貴重な文化的遺産や国宝があるばかりか、斑鳩は豊かな自然にも囲まれ、のどかな空気に満ちている、夜になれば穏やかな静寂が古都を包み込む。
法隆寺参道に今年9月に開業した「和空法隆寺」のコンセプトは現代の門前宿。門前宿とは、寺社への参拝前に旅の疲れを癒し心を静めるために立ち寄る宿だったのだそう。門前宿「和空法隆寺」もゲストが日常をリセットし心身を整えられるように配慮されている。室内は和のくつろぎと洋風の快適さを兼ね備えた和モダンな設えを採用。畳敷きの客室にはローベッドを配し、どの世代のゲストも快適に過ごせる。ナチュラルな木のインテリアや和紙を使った優しい灯り、い草の香り。深呼吸をすると自然に肩の力が抜けていく。
歴史や伝統文化を様々な形で愉しめるのもこの宿の特徴だ。例えば、仏教伝来とともに聖徳太子の時代に伝わったという入浴文化は、もともとは寺院が人々に入浴施設を開放した「寺湯」からはじまったそう。この宿では、その寺湯をイメージした香湯や薬湯なども楽しめる4つの浴堂(浴室)を備えている。また、心を整える和文化体験として、茶道・華道・書道・香道のプログラムを用意している。華道では寺に伝わる簡素で実用的な生け花が学べたり、香道では香水の意味や歴史を学び自らの香りを調合したりと、単なるお稽古的なものではなく大人が愉しめる内容だ。
門前宿「和空法隆寺」は窓の外の美景を愛でる宿ではない。いわば自分の内面にある美しい景色を発見できる宿というべきか。1300年以上の年月を悠然と建ち続ける法隆寺のお膝元に身を置いて斑鳩のゆったりとした空気をすい、伝統文化の懐の深さを五感で感じるリセットの時間。そんな豊かな時間を過ごすうちに自然と不要な思考うや感情はデトックスされ、宿を後にする頃にはすっきりした輪郭の自分になっていることに気づくはずだ。大人の「お籠りステイ」にぴったりな宿といえるだろう。
書道のプログラムでは、墨の名産地、奈良県ならではの墨づくり体験が人気となっている。
フロントをはじめ館内の至る所に、和文化体験の宿を演出する器やオブジェが設えられている。
4つある浴堂は、日本の風呂文化のルーツ「寺湯」の流れをくむ。
昼は奈良や法隆寺関連の書籍を集めたラウンジとして、夜は地酒を味わいながら歴史や文化、仏像トークが楽しめるバーになる。
全60室の客室は華美な装飾を排した和の癒し空間。食事には地元食材を活かした神田川俊郎氏監修の懐石料理などを用意。
大自然に触れるヒーリングステイ
徳島阿波おどり空港から車で30分ほど。穏やかな瀬藤内海と深い緑に抱かれ、ひっそりと佇むラグジュアリーホテルがある。その名は「ホテル リッジ」。2006年の開業以来、大々的な宣伝をしてこなかったため認知度は低いが、リピーターは後を絶たず、まさしく知る人ぞ知る隠れ家なのだ。
約7万坪の広大な敷地にわずか10室、平屋造りの離れ形式の客室は上質な調度品や徳島の特産品を用いた小物などがあしらわれ、エレガントモダンな装い。そしてなにより、窓の外に広がる景色と一体化し、ゆるやかな時間が流れる空気感が漂い、たちまち非日常の世界へと誘われる。とりわけテラスのガーデンソファに身を委ねれば、聞こえてくるのは潮風、木々の葉音、鳥のさえずり……自然の息吹は何ものにも代えがたい贅沢の極みで、心身が潤いに満ちていく。凛とした姿が美しい大鳴門橋を日がな一日眺めたり、源泉掛け流しの温泉に浸かったり、ただぼんやり、のんびりと過ごす。そんな滞在スタイルがおすすめだ。
情緒あふれる食空間に魅了
リピーター率の高い「ホテル リッジ」だが、特に顧客を惹きつける要素のひとつが食事。夕食は、枯山水式の庭園を擁する「万里荘」で瀬戸内の自然の恵みをはじめ吟味された素材の持ち味を際立たせた懐石料理が供される。香りから盛り付けに至るまで、巧みな技と工夫を施し目と舌を喜ばせる料理長、そしてきめ細かく心温まるスタッフのタッグが最高のおもてなしを演出し、忘れられない一夜となるはずだ。また有形文化財に指定されている築100年もの時を重ねた木造家屋での朝食も印象深い。伝統建築美から醸し出される情趣、ここでしか味わえない比類なき体験に感動もひとしお。
瀬戸内の海のように、たおやかな宿。予約が取れなくなるから人に教えたくない。一度訪れたら、そんな常連客と同じ気持ちになるだろう。自分だけの特別な居場所、至福の時間を、ごゆるりとどうぞ。
優美なデザインでまとめられた心地いい客室。
左上/数寄屋造りの万里荘。風情ある回廊がこれから始まる夕食の期待感を募らせる。
左下/瀬戸内の極上食材がふんだんに盛り込まれた懐石料理の一例。
右/周囲の自然とハーモニーを奏でる美空間。まるで一枚の絵画のよう。
左/ご飯が進む多彩な品々が並ぶ朝食。希少な徳島阿波番茶を用いた茶粥(白米と選択可)はぜひ一度お試しを。
右/朝食がいただけるダイニングルームは、三井翠松園(旧三井高達別荘)別館。渋谷から箱根、そして 2006 年にここ鳴門に移築。
地下1,500mから汲み上げた源泉掛け流し温泉。鉄分を多く含む柔らかな泉質。