ザ・ラルー・ホテルのデザインには創業者の賴(Ray)氏の理念が凝縮されている。サステナブルの発想で、後世に遺す文化的価値のある建物として表現したのが台湾の日月潭の山の上に鎮座する「ザ・ラルー・日月潭」。賴氏はこれまで世界中いくつものリゾートに滞在し、いつか自分がホテルを建てる時にはこのイメージで作りたいと考えていた。ホテルのデザイナーを調べてみると偶然にも一人のオーストラリア人デザイナーの名前がリストアップされた。その名はケリー・ヒル。彼の名前は知らずとも彼の手がけたホテルには馴染みがあるはず。
ケリー・ヒルといえば「アマン」。彼は、近年東京にオープンした「アマン東京」や伊勢志摩の「アマネム」、バリ島に始まりブータンやスリランカ、カンボジアなどの地でアマンとのコラボレーションを展開してきた。それらのコンセプトやデザインに惚れ込んだ賴氏の熱烈なラブコールに応え、ケリー氏が仕上げたのが「ザ・ラルー・日月潭」である。彼の建築作品に共通するのは「ローカリティを追求し、文化を理解し、周辺の環境に寄り添い風土に溶け込む空間を作ること」。こうして賴氏が日月潭で表現したかった文化と伝統をホテルに宿すという夢が叶ったのだった。
ケリー氏最後の仕事とされるのが「ザ・ラルー・青島」。これは中国初のラルー・ホテルで2014年に開業した。それに続く2軒目が「ザ・ラルー・南京」なのだがケリー氏は完成を見届けることなく、昨年8月日に故郷のオーストラリア・パースで75歳の生涯を閉じた。ケリー氏は自身の設計へのこだわりについて生前このように語っていた。「絶対過去の自分の真似はしない」。その言葉通り、彼が手がけたどのアマンも、そしてザ・ラルーも斬新な発想とデザインによってその土地に息吹を吹き込まれ、生きたホテルとして唯一無二の存在となっている。「建築そのものが主張してはいけない」というケリー氏のデザイン哲学を継承し誕生したのがザ・ラルー・ホテル・南京なのだ。
滞在して感じるのは水や木々に囲まれる癒しと天然素材やアンティークの調度品に包まれる安心感。日中は日差しを柔らかな木漏れ日にする工夫がなされ、日が暮れると建物全体がドラマチックに変容する間接照明の妙。日の出から夜の帳が降りるその時まで光と空間を見事に演出している。
華美な装飾は極力控えられていて、アースカラーの配色で纏められた室内は無駄のないレイアウトにデザインされている。バスルームには大理石のタイル、ベッドルームの床はフローリングになっていて天然の素材が随所に使われているので都的な冷たさは感じない。
プライベートテラスに出て悠々と流れる揚子江の流れと澄んだ空気に触れると中国大陸の広大さを肌で感じることができる。最上階には屋根付きの屋外ラウンジがあり、遠くの山並みに沈む雄大な夕陽を眺めながら中国茶を頂くサンセットタイムは格別だ。
全室スイート。室内の窓からは揚子江の美しい景観が望める。
明るく開放的なバスルームは機能的で使いやすくすっきりとした美しいデザイン。
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