野LOUIS XIII × 九島辰也
時間を楽しむための贅沢なツール
100 年の歳月をかけて完成されるコニャックの王「ルイ13世」。味わう前から香りで感動させる、豊かな創造性と美学あふれる一杯の楽しみ方を聞いた。
撮影/大橋マサヒロ
クルマの国際試乗会で海外に行った際に、パーティ後のバータイムでコニャックを飲む機会が一時期ありました。でも、そこに「ルイ13世」はなかったし、このお酒をちゃんと認識して飲んだのは、ごく最近です。
口に含む前に、まず香りに驚くはずです。最初は胸の前に、そこから口元、鼻の先へと三段階で楽しむのがお決まり。一つのグラスから、まさかこんなにも香りの変化を感じるとは、僕も想像していませんでした。初めはわりと燻製というか、スモーキーな感じで、どんどんと甘さが感じられるのが不思議。口の中でコニャックの味を感じた直後、鼻から抜ける香りもまた特徴的なんです。もっと言えば、その後に飲む、一杯の水も余韻があって、おいしいものです。
僕は、「ルイ13世」はワインの延長線上にあるものだと考えています。コニャックに馴染みのない方にとっては、スコッチやバーボンのような同じ琥珀色のお酒という範疇にとらわれそうだけれども、コニャックとワインには葡萄から造られるという共通項があるし、香りやオー・ド・ヴィーの成り立ちをみても繋がりを感じますよね。「ルイ13世」を一言で表すなら〝時間を楽しむための贅沢なツール〞だと思います。一緒にたしなむ相手は女性でも男性でもいいし、年齢も関係ない。誰と飲むかという条件すら超越した存在。香りを感じながら、口に含みながら、いろんな話をしながら時間を楽しもうという価値観をもっていれば、この良さを体感できると思います。僕はライフスタイル的に、食事という食事をしっかりとる機会も減ってきたので(笑)、特に同世代の方には、食後でも食前でもタイミング問わず試してもらいたいですね。今日はいいことがあったから飲もうとか、逆に何もなかったから飲もうとか、どんな時も許容してくれる懐の広さがあるお酒です。
「ルイ13世」には、〝特別なものを日常に取り入れることの素晴らしさ〞というテーマがあります。僕が真っ先に思いつくのは、やっぱり2人乗りのオープンカー。クルマのジャンルでは〝非日常〞です。そんなクルマを日常的に所有することと、生活に「ルイ13世」を取り入れることは似ている気がします。1世紀という時間を要する手間と、ブランドの歴史を感じる存在感……現代にアレンジはされているけれど、そこに伝統を思わせるモチーフがあったりする。いわば、1913年の設立から続く「アストンマーティン」のよう。
このお酒のモノづくりは、どこか都市計画に似ていますよね。世の中には、設計図に最初の一本を引いたが完成に立ち会えなかった人もいる。このコニャックも、100年前、セラーマスターは〝完成したらこういう状態になっている〞という最終形を想定して設計しているはず。もはや、壮大なプロジェクトですよね。
モノの価値や見る目は、経験が高めてくれること。その点で言えば、値段で価値を定めるのではなく、クオリティやプロセスに対して価値を見出せる人が、楽しく飲めるお酒です。非常に実直に作られているし、その創造力に着目して一杯を幸せと置き換えれば、とてもアフォータブルな代物。僕はもうワンステージ上がったら(笑)、どこかのタイミングでライフスタイルに取り入れたいですね。
profile
九島辰也
1964年、東京都生まれ。モータージャーナリストとして活躍する傍ら、「MADURO」(株式会社 MADURO)、アリタリア-イタリア航空日本語版機内誌「PASSIONE」両誌編集長を兼任。日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員、日本葉巻協会会員。
Information
ルイ13世
希望小売価格¥280,000(税別)
レミー コアントロー ジャパン株式会社
TEL 03-6441-3025
http://louisxiii-cognac.com