guntû ガンツウ 海の上のおもてなし
人生は年輪のようなもの。
歳を積み重ね喜怒哀楽を共にした人と共有したい刻がある。
そんなときには誰にも邪魔されずに穏やかな風に身を任せただただぼーっと海を眺めて過ごす。
縁側、茶室、白木のテーブル、檜の露天風呂。
夜が更けたら6席だけの小さな鮨カウンターで昼間、漁師が届けてくれた旬の魚を頂く。
どこまでもゆるやかな時が流れるせとうちの海に佇む宿で思いのままに。
写真・文:大橋マサヒロ
日本の美意識を集約したちいさな宿
「せとうちの海に浮かぶ、ちいさな宿」をコンセプトに、2017年10月17日に就航した客船「guntû(ガンツウ)」。この船は、広島県尾道市にある造船業を中心とした常石グループの一社であるせとうちクルーズが、瀬戸内海の素晴らしさを国内外に向けて発信するために開業。瀬戸内海をクルーズしながら、この地ならではの豊かな食、伝統文化や風土を肌で感じることができる。
建築家・堀部安嗣(ほりべやすし)氏がデザインした船は、大きさも仕様も海を航海するクルーズ船とは趣が異なり、まるで日本家屋のような造りになっている。外観は、周囲の景観に溶け込むようなシンプルな色使いだが、船内に足を踏み入れたならばこの船に込められた想いが至る所から伝わってくる。まずは、まるで掃き清められた石庭を思わせる凛とした佇まいのエントランスホールに出迎えられ、船内は床や壁、ダイニング、さらには半屋外のオープンデッキに至るまで、計11種類もの木材によって見事に仕上げられている。日本の美意識や建築スタイルが凝縮された造船技術には、驚きを通り越して感動を覚える。客室の床材には、浮き造りという特殊な加工をした「タモ」という木材が使われていて、裸足で歩くと木の温もりと柔らかさに包まれ、なんとも心地よい。
全19室、4タイプある客室はすべてテラス付きのスイートルーム仕様。どの客室からも、窓の外には緩やかな島なみと優しいせとうちの海が目の前に迫る。悩ましいのは部屋のどこにいても居心地が良いこと。 広々としたベッドで寛ぐのもいいし、ソファに身を沈めて読書もいい。テラスに出て海風を浴びながら一杯やるのも格別だ。露天風呂付きの部屋なら、海を眺めながら檜風呂に浸る悦楽。さらに、船内にはスパや ジム、サウナを備えた浴場もあり、思いのままに過ごすことができる。
この船の名は、瀬戸内産の小さなカニに由来している。決して身が多いわけではないが味噌汁や鍋に入れ ると美味しい出汁がとれるという。地元の人たちは、この滋味深いカニのことを、親しみを込めてガンツウと呼んでいる。そのカニのように地元の人たちに愛され、乗船客にはせとうちに息づく伝統や文化、食材を目で見て味わってもらいたいという想いが、この船には込められている。
爽やかな潮風が心地よいオープンデッキ。のんびりと思い思いの時間を過ごせる。
檜の露天風呂を設えた部屋も用意されていて、海を眺めながら極上のリラックスタイムを楽しめる。
凜とした佇まいのエントランスホール。研ぎ澄まされた和の美意識を感じさせる。
客室は、木のやさしい温もりと清々しい香りに包まれている。
せとうちだからこそ味わえる贅沢な旅の楽しみ
出航後、しばらく波のない穏やかなせとうちの海をクルージングしていると、漁船が近づいてきて横付け する。漁師さんが獲れたての魚を届けにきたそうだ。今夜ダイニングでいただく海の幸が船にあげられ、 三原市沖合いで獲れた生ダコを板前さんがすぐ捌いてゲストに振る舞う。獲れたてをその場で食す―。日本人ならではのもてなしの心と、この地に育まれた生きとし生けるすべてのものに感謝する。
ガンツウの食のコンセプトは、「旬を、お気に召すままに」。メインダイニングに座るとスタッフがその日の魚貝や肉、野菜の入った木箱を持ってきて、食材の説明をしてくれる。気に入った食材を選び、あとはシェフにお任せで調理してもらってもいいし、炭火で焼くのでも構わない。すべては「お気に召すまま」だ。
メインダイニングの奥には6席だけの鮨カウンターがあり、近海で獲れた旬の魚を握ってもらえる。白身が中心で、夕方届いた地ダコや鱧など、ここでしか出合えない特別な一品についつい手が伸びてしまう。
翌早朝、ガンツウに積まれたテンダーボートで、世界遺産の宮島に上陸して散策する。朝霧に包まれ、観光客もまばらな厳島神社は静寂と霊験が漂っていた。船に戻り、オープンデッキで島なみを肴にキャンパンで喉を潤す。船内のラウンジでは抹茶と和菓子もいただける。
他にも鹿島の段々畑の散策や、釣り体験など、せとうちの個性豊かな島々の日常に出合う素敵なエクスカーションが季節や航路ごとに用意されている。
「行住座臥(ぎょうじゅうざが)」という言葉は、全てにおいて無駄なく、そして慈しむという仏教用語で、人の行いの大切さが説かれている。ガンツウでの船旅は、まさしく行住座臥ではないだろうか。一期一会の出合い、そしてこの地で獲れる食材に感謝し、くつろぎながら海と島々が織りなす悠久の時と対峙すると、それまで得られなかった至福を感じられるようになる。清廉なるせとうちの海とガンツウは、この美しき島国に生まれた喜びを再発見させてくれたようだ。
せとうちの恵みに溢れた朝食。和・洋からセレクトでき、メインやサイドメニューも選べる。
昼食は和食や洋食のほかに、丼物や麺なども用意されている。
インダイニングの奥にある6席だけの鮨カウンター。白身魚を中心に獲れたての魚介を楽しめる。
宮島の散策をはじめ、瀬戸内海に浮かぶ島々のささやかな日常にふれる船外体験プランが用意されている。
島々が織りなす美しい風景、豊かな食……。ガンツウでの旅は、せとうちでなければ味わえない魅力に溢れている。
information
guntû
料金:1泊2日¥200,000〜(1室2名利用時の一人料金)
※気象・海象状況により航路やツアー内容が変更になる場合があります。
お問合せ・ご予約
guntû Gallery
東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル 本館中2階
TEL 03-6823-6055(10:00 〜 18:00)
定休:水曜日
http://guntu.jp/