新香港創造 – 発信者の都市の新機軸

ファッションやインテリア、グルメシーンにおいて、その存在感を着実に増す香港。
中国悠久の歴史に西洋文化で味付けされた独自の文化は

唯一無二のオリジナリティとして世界を席巻する。
時代の先端、新たな道を切り拓く、発信者たちの息吹。

空間に命を吹き込む照明デザイナー – Tino Kwan

「得たインスピレーションに自分の解釈を加え新しいアイデアが生まれる」

Tino Kwan
世界的な照明デザイナーとして知られるティノ・クワン氏。

 世界を舞台に照明デザインの第一線で活躍するティノ・クワン氏。ザ・ペニンシュラ東京やマンダリン オリエンタル 香港などの一流ホテルをはじめ、ルイヴィトンウォッチ&ジュエリーショップ香港などの高級ブランドショップ、さらにはイランの宮殿にいたるまで、これまでに数多のビッグプロジェクトに携わり、その情熱と創造性で光を通じて空間に命を吹き込んできた。
「十分な光が求められる場合でも多くの光を使う必要はない」という自身のデザイン哲学の通り、ティノ氏が創造する照明の光は妖艶で美しく、同時に最小限の光で見事なまでに快適な空間を演出している。

 照明デザインの第一人者だからこそ、照明に対するこだわりは誰よりも強い。そして誰よりも厳しい。
「とあるレストランは料理が美味しいと評判ですが、決して行こうとは思いません。それは何よりも室内の照明が悪いから」とティノ氏。こんなエピソードもある。レストランでテーブルに着くと、照明の光がテーブルの上の料理ではなく、着席した人の頭に当たっていた。それに耐えかねたティノ氏は天井のライトに手を伸ばし、自ら照明の向きを調整してからディナーを楽しんだというのだ。
「私は極端な例かもしれません。しかし、照明というのはほんの小さな違いでも人間の感覚に大きな差異を生じるものなのです」。

Tino Kwan
共同オーナーを務めるタイ料理レストラン「Mango Tree」のオープニングパーティでは、集まったゲストをティノ氏のデザインした照明が彩った。

 大きなプロジェクトをいくつも抱え多忙を極める毎日を送る。しかし、「仕事から解放される時間を確保することも大切」と、奥様と一緒に夏はイタリア・トスカーナのヴィラに、冬は日本でスキーを楽しむ。旅はリラックスすることが目的だが、そこで見聞きしたことは照明デザイナーにたくさんのインスピレーションを与えてくれるともいう。
「新しいアイデアというのは旅先で得たインスピレーションについて深く考え、自分なりの解釈を加えることで生まれるのです」。

 気心の知れた友人たちと過ごす時間も大切にし、自宅に招いて得意の料理の腕を振るうことも多い。その腕前はプロ並みで、特に好きなイタリアンはパスタからメイン、そしてデザートまでフルコースでふるまう。メニューはフード専門チャンネルや料理本を参考にするそうだ。
「同じ料理を作るにしても、料理本によって調理の仕方もレシピも異なるもの。だから、本のレシピに100%従う必要はないことを知りました。試行錯誤し、自分自身の判断を加えれば、より美味しいものができるのです。これは照明デザインのアイデアが生まれる工程と同じです」。

ティノ・クワン – Tino Kwan
照明デザイナー。香港理工大学卒業後、照明デザインの権威ジョン・マーステラ氏のもとで研鑽を積む。転勤先のアテネで西洋式照明設計のコンセプトを見出し、ヨーロッパでの活躍が評価されデイル・ケラー・アソシエイツ社の照明部門のヘッドに抜擢される。1979年にロンドンで独立、TinoKwan Lighting Consultants社を設立。現在に至る。建築家のノーマン・フォスターの設計のもと、2013 年に香港啓徳空港跡地に完成予定の大型客船用ターミナルのデザインが次のプロジェクトとして進行中。「TenMost Outstanding Designers」(2007年)など受賞歴も多数。

TinoKwan Lighting Consultants
602, 6F, Block C, SeaView Estate,
8 Watson Road, Hong Kong
Tel: +852-2521-2119
http://www.tinokwan.com

ジュエリーに宿る中国文化への誇り – Dennis Chan

「東洋的な何かをクリエイトすること、キーリンは常に私の夢でした」

Dennis Chan
ファインジュエリーブランド「キーリン」のデザイナーでもあるオーナーのデニス・チャン氏。

 中国の伝統から受けたインスピレーションをフランスの精緻なクラフトマンシップが形にする。その姿形はエレガントで美を極め、そして時に遊び心をもって身につけるものを魅了する。このファインジュエリーの創案者であり、自らデザインを手がけるデニス・チャン氏は、「キーリン」のジュエリー一つひとつに現代中国のデザインの粋を注ぎ込んでいる。
「東洋的な”何か”をクリエイトすることは、長い間、私の夢でした」というデニス氏。香港の大学を卒業し、プロダクトデザインを学びに単身英国に渡った。そこでジュエリーデザインの魅力に出会うが、香港を離れたことであることを強く意識するようになった。
「香港から海外に出ることで、いっそう自身の国の文化について深く考えるようになりました。中国5000年の歴史において、世界に誇れる素晴らしいデザインを多々発信している時代がありました。例えば明王朝時代の家具などがそう。そんな輝かしい歴史を有する自国の文化に対する誇りが芽生え、そしてそのポテンシャルを探るようになったのです。もし、そのまま香港にいたならば、自国の文化に対して同じような感覚を持てなかったかもしれません」。

 その言葉の通りデニス氏がデザインするジュエリーには中国的なテイストがいたる所に散りばめられている。例えば瓢箪を象ったコレクションは古来中国に伝わる招福を願って形にしている。金魚や鈴の形のジュエリーもそうだが、モチーフとなった中国の伝統はどれも繊細を極め、そしてモダンでコンテンポラリーなデザインとなって昇華されるのだ。

Tino Kwan
パンダの形をしたBO BOコレクションは中国のパンダとテディベアが融合したもの。洋の東西のコンビネーションであり、平和を象徴している。

 デニス氏の自国の文化に対する考えに共感する著名人も多い。例えば女優のマギー・チャンもそのひとり。彼女が2004年、カンヌ映画祭に招かれた際、キーリンの瓢箪のイヤリングを身に付けてレッドカーペットを歩いた。そして、女優賞を獲得することになる。「私がジュエリーに想いを込めた通り、瓢箪が幸福をもたらしたのでしょうか」とデニス氏は目を細める。
「キーリンは常に私の夢でした」とデニス氏。
「ジュエリーの背景にある物語を世界の人々に発見してもらい、中国、もっと広い意味で東洋に深い興味を持ってもらいたい。僕のデザインしたジュエリーがそのきっかけになってくれたら幸せです」。


デニス・チャン – Dennis Chan
英国でプロダクツデザインやジュエリーデザインを学んだ後、デザイナーとしてキャリアをスタート。プロダクトデザインの巨匠として知られるケン・島崎氏とともに、主に松下電工や三洋電機などのデザイン・コンサルタントとして活躍する。「常に夢に描いていた」というジュエリーブランド「Qeelin」を立ち上げ、ナショナルブランドに育てあげる。現在、パリの「オテル・ド・クリオン」や「コレット」ほか、ロンドン、LA、北京、上海、香港、シンガポールなどに14のブティックを展開。セリーヌ・ディオンやケイト・ウィンスレット、マーク・ジェイコブスなど、多くの著名人を顧客に持つ。

Qeelin, Hong Kong Botique
Prince’s Building, Shop M29,
10 Charter Road, Central, Hong Kong
Tel: +852-2834-9888
http://www.qeelin.com

空間が生む新たなエネルギー – Alan Lo

「香港は小さな都市だけどやるべきことはまだまだたくさん」

Alan Lo
「ザ・ポーン」の共同オーナーであるアラン・ロー氏。

 植民地時代の面影が残る1800年代後半の建造物。重い扉の先、薄暗い階段をのぼると雰囲気が一変、賑やかなレストランやバーが展開される。往時のままの古い内装はモダンなアートワークと最新の音楽に彩られ、新旧のコントラストが際立つ。

 この「ザ・ポーン(The Pawn)」をオープンしたのはアラン・ロー氏。2006年にハリウッドロードにフレンチレストランをオープンして以来、2件目のレストランとしてコンセプトづくりからすべてプロデュースした。
「香港で築100年を超える建造物といえばとても古く稀少な存在。2006年に初めてこの建物に出会った際、当時は最初のレストランオープンしたばかりでまだ次のプロジェクトに取りかかれる準備など全然できていませんでした。でも、一目見た瞬間にこの空間を利用して何かができると思ってしまったのです」。

 訪ねて来た人々に歴史を有す空間であることを感じてもらいたく、植民地時代の香港の歴史を反映するかたちでインテリアを考えた。家具や照明など目にするほとんどの調度品を当時の香港や英国からのオリジナルのビンテージのものに揃え、一方で地元アーティストであるスタンリー・ウォン氏をインテリアデザイナーとして招き、現代的なアートワークや映像、写真で空間をデザインした。
「香港の伝統に西洋風の要素を取り入れ、鮮明なコントラストが生み出す新たなエネルギーを感じてもらいたかった」とアラン氏が語るように、そのエネルギーはレストランを飛びだし、ワンチャイというエリア全体に活力を与える存在となった。ザ・ポーンのオープンをきっかけにメディア関係者や広告業界、アーティスト、デザイナーが集まるようになり、多くの人がこのエリアに興味を持つことでエリア全体が活性化されたのである。

Alan Lo
2階は植民地時代の雰囲気が色濃く残る英国料理のレストランとなる。

「レストランによる様々な変化は、すべて初めから狙っていたことでありません。伝統的に洗練さとは無縁なワンチャイで新しいレストランを提案することはかなり大胆なアイデアだったとも思います。でも、私たちはただ建物自体の良さを人々に知ってもらいたかったんです」とアラン氏は話す。

 次なるプロジェクトもすでに動き出している。パシフィックプレイスの隣の小さな丘の上でモダンなヨーロピアンスタイルのダイニングをオープンするという。
「将来は、香港の郊外でファームハウスのような小さなホテルをつくってみたい。香港は小さな都市ですがまだまだやることはたくさん。これからも香港を舞台に、ライフスタイル全般にわたる新しい体験を提案をしていきたい」。


アラン・ロー – Alan Lo
ワインのバイヤーだったパオロ・ポン氏と投資銀行に勤めていたアーノルド・ウォン氏とともに新たなライフスタイルを提案するThe PressRoom Groupを主宰。プリンストン大学で建築を学び、デザインやクリエイティビティの分野に造詣が深い。The Pawnのほか、フレンチの「The Press Room」、インターナショナル料理のダイニング「TheNews Room」、ワインとチーズの「Classified」の立ち上げに関わる。

The Pawn
No.62 Johnston Road, Wan Chai, Hong Kong
Tel: +852-2866-3444
http://www.thepawn.com.hk

日中間の新しい道を創造する – Jeremy Cheuk

「長期的な友情と信頼の構築。それが私のビジネスのキーワード」

Jeremy Cheuk

「いま、中国に進出したい企業は日本にたくさんあります。でもどうやったらいいか分からないのがほとんど。そんな彼らに一番良い方法を提案するのが私たちの仕事」というジェレミー氏。日中間の橋渡しとなることが大きなテーマだ。

 日本の企業が中国と取引をするには、商文化や法的な相違といった障壁が存在する。中国に対する”恐れ”となって表れるこれらの相異を見出して解決する。「日本と中国との間に存在するカルチャーギャップを埋め、日本の企業が中国で働きやすい環境をつくることが目的なのです」。もちろん中国も日本から学ぶべきことも多い。故に日本から中国への一方通行ではなく、両国間二方向の新しいビジネスの道を創造することに喜びを感じる。
「ビジネスで大切にしていることは正直でいること」とジェレミー氏。「私のビジネスをする上でのキーワードは長期間にわたる友情と信頼の構築」と断言し、長期的な関係こそがビジネスの成功には不可欠と考える。かつて投資銀行で経験を積み、独立後に短期的な利益を追求することを優先する結果、大きな損害をもたらした苦い経験があったからこそ、信頼の構築こそがビジネスをする上で最重要だと考えるのである。

 休日はもっぱら家族と過ごす。2人の息子と一緒に公園や山に出かけることが一番のリラックスになるという。
「息子たち家族が幸せになってくれたらそれだけで私は幸せ。いくらお金があっても家族の幸せは買えませんからね。素晴らしい家族、素晴らしいパートナー、そして素晴らしいビジネスがあれば、これ以上望むものはありません」。

Henri & M.C. International
4F Siu Ying Commercial Building
151-155 Queens Road, Central, Hong Kong
Tel: +852-2877-7710
http://www.hmcid.com