文化の交差する街 – 銀 座
日本を牽引する街 – 日本橋
江戸 「東海道五十三次 壱 日本橋」
葛飾北斎画 1804(文久元)年
日本橋の往来の賑わい。魚を担いだ男性は日本橋魚河岸で仕入れた魚を運んでいる。
資料提供:中央区京橋図書館
日本橋が架橋されたのは、徳川家康が江戸幕府を開いた1603(慶長8)年のこと。翌年には五街道の起点となり、日本の中心として発展することになる。目抜き通りである日本橋通りには、越後屋や白木屋といった呉服屋をはじめ、大店の商家が軒を連ねた。隅田川に続く水路の発展も街の発展に大きく影響し、荷揚げの集積地として日本橋魚河岸も盛況を極めることになった。
人や物が集まるところにはお金も集まる。そんな日本橋に幕府が金貨を鋳造する金座を設置したのも不思議なことではない。明治時代になると、造幣局が設けられ、さらにその跡地には日本銀行を建設。日本橋は金融や経済の中心としての役割を担うことになったのである。
日本橋を象徴するものとして、三井本館の存在も見逃すことはできない。関東大震災後に復興のシンボルとして再建された歴史的近代建造物は、街の象徴として現在でもその壮麗な姿を留めている。金融と老舗問屋と職人たち。日本橋は、その異なるものが違和感なく共存し、未来に向けて共に歩んでいるのである。
左/三井本館
関東大震災後の1929年に、復興のシンボルとして竣工した三井本館。外壁を囲むコリント式の列柱やドリス式円柱群と吹き抜け大空間などの歴史的価値が認められ、昭和初期を代表する建築物として国の重要文化財に指定されている。
資料提供:三井不動産
右/昭和初期 「三越本店と日本橋」 1935(昭和10)年
昭和初期の日本橋の様子。まだ日本橋の上には首都高速が走ることなく、すっきりした景観を作っている。
資料提供:中央区京橋図書館
歌川派×日本橋
歌川広重「東海道五拾三次之内 日本橋朝之景」
資料提供:中央区京橋図書館
江戸城のお膝元、日本橋は日本の中心として、様々な浮世絵に描かれてきた。なかでも歌川広重を代表する歌川派は、日本橋を舞台にした多くの名作を残してきた。そして現在。時代が変わっても日本橋は、歌川派の流れを汲む浮世絵師を惹き付けている。
江戸時代の日本橋の様子は、「熈代勝覧」(ベルリン東洋美術館蔵)にいきいきと描かれている。熈代勝覧とは、当時の目抜き通りであった日本橋通りを中心に、今川橋から日本橋までを俯瞰図におさめた絵巻物。通りには商家が軒を連ね、買物客が越後屋呉服店(現 三越)で賑わう様子など、当時の街の姿が克明に描かれている。
一方、日本橋を語る上で欠かせない浮世絵として、まず思い浮かぶのが歌川広重による「東海道五拾三次之内 日本橋朝之景」だろう。橋の向こうから大名の行列らしき一団が勇みよく走ってきて、魚屋や八百屋などの行商人とともに朝から賑わう日本橋の様子がいきいきと描かれているおなじみの浮世絵である。
歌川広重は、歌川豊春を開祖とする歌川派の一人。豊春の弟子の豊国と豊広のうち、豊広の流れを汲む浮世絵師である。広重をはじめ歌川派の絵師たちは西洋風の遠近法をいち早く取り入れ、当時としては斬新な技法を用いて日本橋周辺の様々な様子を絵に残してきた。日本橋には江戸城と霊峰富士、行き交う人々で活気溢れる日本橋が一ヵ所に集まり、絵師を惹き付ける要素に溢れた絶好のロケーションだったのである。もちろん風景画だけに限らない。遊郭や芝居小屋が浅草方面に移転させられるまでの間、日本橋には役者や美しい女性たちが闊歩し、そんな日本橋を舞台に役者絵や美人画も描かれてきたのである。
歌川芳虎
「書畫五拾三驛 武蔵 日本橋三ッ井組ハウス」(旧 三井銀行)
資料提供:中央区京橋図書館
歌川派の流れを汲む若き浮世絵師、六代目歌川国政さんは、「浮世絵は古い絵というイメージがありますが、絵師はその時代時代のいまを表現してきました。広重の作品を眺めると、風景画の一部のなかに人物の表情や仕草がいきいきと描かれ、新しいもの好きの江戸気質が手に取るように伝わってきます」と、常に時代の先端を描く絵師の好奇心を刺激した街として、日本橋は広重たちに魅力的に映ったのだろうと話す。
美人画の絵師として活躍する国政さんは、広重のように風景画を専門とする浮世絵師とは異なるが、「江戸時代から続く伝統が斬新なオフィス街としての一面も持つ街と同居し、独特でいい面影があります」と新旧が融合する日本橋には特別な想いを持つ。そして実際、先代の歌川派の浮世絵師たちと同じように、日本橋を舞台にした絵を描いている。日本橋室町の中央通りを一本入った所に、三井不動産運営の「福徳塾」が在る。それをイメージした美人画3部作の作品は、伝統のなかに混在する新しい街のイメージが着物を着た女性とともに見事に描かれ、日本橋らしい「和モダン」となって表現されているのである。
先代の歌川派の作品とともに国政さんの作品には、伝統を尊重しながらも時代に対応し、新しい未来へと進んでいく日本橋の心意気までもが伝わってくるようである。
歌川派の絵師
左/月下美人、 中/赤と黒、 右/Stripe Emotion
六代目歌川国政が、和とモダンが融合する日本橋を象徴する室町の福徳塾と日本橋の現代の女性を意識して描いた肉筆画3部作。特に「赤と黒」(中央)は福徳神社の赤、「Stripe Emotion」(右側)は福徳塾内装の格子を意識している。
資料提供:六代目歌川国政
浮世絵師 六代目歌川国政
1978年、東京都葛飾区生まれ。2000年、六代目歌川豊国に入門。豊国他界後は独学で浮世絵を学び、浮世絵モダニストとして、個展やグループ展で美人画を中心とした作品を精力的に発表する。2006 年10 月に銀座アートスペースで歌川派展を開催、2007 年夏頃からは、写楽を題材にした映画「宮城野」で使用される浮世絵の制作を担当した。
福徳塾
地下鉄銀座線・半蔵門線「三越前駅」A5、A7 出口 徒歩約2 分
東京都中央区日本橋室町2-3-16 三井6 号館1F
TEL: 03-6202-0599 http://www.fukutokujuku.jp