島根県の出雲地方、青森県の奥入瀬渓谷。神々が宿る二つの地に憩う冬の美食旅。
日本海の味覚と北の大地のみずみずしい自然の息吹を感じる極上の旅路を行く。
取材・文:朝岡久美子 写真:内藤拓
右/~極みタグ付き活松葉蟹尽くし会席~より、“蟹の奉納蒸しと甲羅焼き”。12月以降は隠岐の島のかご漁が始まり、ストレスをかけない伝統の手法によって、さらに甘い蟹味噌が味わえる。
左/宍道湖のしじみの出汁で味わう“蟹としじみの蟹すき鍋”。
右/宿で供される“神饌朝食”では、神々に捧げる山海の恵みを味わう。朝食からノドグロの干物に舌鼓を打つ楽しみも出雲ならではだ。
左上/ヤマタノオロチ伝説を題材にした本格的な石見神楽を毎夜鑑賞できるのも滞在の大きな魅力だ。
神々が宿る出雲の地を行く
神々によって拓かれた地として、古来、私たち日本人の心の中に深く根を下ろしてきた出雲の地。おおくにぬしのみこと大国主命や、ヤマタノオロチ伝説すさのおのみことに登場する素戔嗚尊の名は、神話に興味が無くとも、一度は耳にしたことがあるだろう。神々の息吹によって生みだされた出雲平野の雄大な営みは、悠久の時を経て今なお、この地に、そして、人々の心の中に生き続ける。
出雲空港から車で『星野リゾート界出雲』に向かう。道中、壮大な空と雲の描きだす出雲の大地にたたずむと、宍道湖のみずみずしい湖面の輝きに、永遠なる神々の御業を体感する。
出雲は、海、山、川、湖というあらゆる大地の恵みに満ちている。出雲という名称が語るように曇天の多い山陰独特の気候もまた、その湿度ゆえに恵みの雨が豊饒の大地を潤す。神々の恵みはどこまでもこの地を豊かに実らせるのだ。
そして、もう一つ。この地をさらに潤すのは、奈良時代に編纂された「出雲国風土記」にも謳われているように、古来、“神の湯”として知られる温泉があることだ。そして、まさに今、道中を行く界出雲がたたずむ玉造温泉こそ、その神の湯 に他ならない。
「一度入浴すれば肌が若返り、二度浴すれば万病も癒える。その効能が効かなかったことは一度もない」と、古式ゆかしき書に記された奇跡の湯。1300年の昔から“神の湯”と讃えられた所以だ。現代では、化粧品会社の成分調査によって、質の良い高級化粧水に限りなく近い成分であることが科学的にも実証されているという。
冬の日本海の贅にあずかる
湯の楽しみに花を添えるのは、神々の大地が醸す酒と美食だ。ヤマタノオロチ伝説とともに日本酒誕生の地としても知られる出雲の骨太で昔気質の逞しい酒に酔いながら、冬の醍醐味、蟹尽くしの贅にあずかる。神々の雫に潤され、冬の日本海の甘美なる果実に酔いしれるひととき。神前に捧げた畏き神饌を、厳かにも喜びに満ちて分かつ清めの宴だ。
冴えわたる冬の月下に、思う存分、美酒の盃を味わうもよし。神話の浪漫に浸るもよし。神々の供する豪快な宴の余韻を感じつつ、悠久の時の流れに、しばし、憩う。
右/“神の湯”と讃えられた湯は、正真正銘の美肌の湯だ。硫酸イオンが肌に潤いを与え、塩化物泉が保湿作用を促す。
中/地域の手仕事の魅力があふれるご当地部屋「出雲匠の間」。“ご当地部屋”は、地域の魅力と個性を活かした客室として、全国にある「界」の各宿に設けられている。
来る春に薫る
―― 美食三昧と、淡色の美を愛でる極上のひととき――
星のや京都 ―― 京の春の息吹を感じる桜夜の美食 ――
桜の名所、嵐山。淀川の支流、大堰川沿いにひっそりとたたずむ『星のや京都』は、小倉山とともに桜の美しさを一望できる最高のロケーションにある。3月1日から4月30日までの春の滞在を彩る美食のテーマは、「苦みと香りを味わい、華やぐ春を楽しむ」会席料理。山菜などの苦みや香りに加え、桜をはじめ様々な草花に彩られる春の嵐山や桃の節句の華やかさを表現した仕立ては、一足早い春の訪れを感じさせてくれる。
献立(全9品のうち一部抜粋)
花見や桃の節句の華やかな風情を楽しむ八寸~春爛漫の肴核~
桜色の鯛を桜の香りと味わう向附~変わり造里小春仕立て~
焼物~鰆菜種焼き~
春の花々に見立てた椀物~桃花餠白味噌仕立て
いちごの酸味と香りを味わうデザート~春のマカロン~
星のや富士 ――桃源郷花見の甘いひととき――
日本初のグランピングリゾート『星のや富士』。眼前にたたずむ富士山の勇姿に抱かれ、雄大な自然と渾然一体化できる至福の環境が繰り広げられる。
4月、山梨県内にある貸切りの桃農園に、プライベートな花見の宴席が登場。桃源郷の淡色に癒され、残雪を頂く山々の絶景を望む至福のひとときに花を添えるのは、桃とカラメルソースのクレープシュゼットの甘いひととき。美しい絶景と、杏仁のような桃園の香りに包まれる至福の時間は、ラグジュアリーなグランピング滞在にさらなる彩りを与えてくれる。
【概要】期間:2021年4月5日~20日 料金:1名 6,500円(税・サービス料別)
*送迎料込、宿泊料別 *1日最大 5 組10名まで *満開の時期は前後する可能性あり。
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル
雪の奥入瀬渓流に憩う ―― 清らかに心に沁みる真冬の美食旅 ――
由緒ある禅寺で、坐禅の基本や日本仏教などについて学ぶ。
奥入瀬渓流の冬の芸術、氷瀑をイメージした奥入瀬渓流ホテルの露天風呂「氷瀑の湯」。
冬の奥入瀬渓流~ 氷の微笑が織りなす美に心を潤す
太古の昔、八甲田山から噴出した火砕流が堆積して誕生した奥入瀬渓谷。のちに生まれ出た十和田湖が、その後に決壊し、奥入瀬の大地に恵みの水をもたらした。大洪水が一気呵成に生みだした谷間に描きだされた渓流美は、なだらかで、人々をあたたかく包み込むやさしさに満ちている。
人々を寄せつけぬ自然の厳しさとは無縁の母なる渓谷も、冬ともなると、その満面の笑みを閉ざし沈黙する。しかし、その氷の微笑でさえも、峻厳さは決して見せない。奥入瀬の女神たちは、まだ見たことのないような雪の世界の真の美しさを惜しげもなく私たちに分かち与えてくれるのだ。凍てつく大地に華やぎを添える氷瀑の美しさ、岩々の雫に芽生えたダイヤモンドのような輝き――女神たちが生みだす氷の芸術の美しさは、どんなに閉ざされた心にもやさしく語りかける。
パウダースノーが風に舞い、軽やかに銀世界を描く。まだ誰も歩いていない純白の輝きをスノーシューのシュプールで追いかける。清らかな雪の情景に抱かれると、自然と微笑みがこぼれるのはなぜだろう――。
鮪や白子など、青森の冬の味覚を活かした9品の皿を堪能する冬限定ディナーコース。ブルゴーニュを中心とした極上のワインペアリングを提案してくれるのも嬉しい。
右/津軽地方伝統の粗汁“じゃっぱ汁”からインスパイアされた一品。醤油パウダーをまとわせた白子にフュメ・ド・ポワソンとシャモで仕上げたコンソメをかけて味わう。
中上/真鯛のポワレ。下には大根餅が敷かれており、ワタリガニのソースと黒酢のアクセントで中華のエッセンスも感じられる贅沢なアンサンブル。
中下/鮪のタルタルと長芋の前菜。鮪節の出汁で炊いた長芋と米を鮪の魚醤と絡ませ、贅沢にマリアージュさせた逸品。北の大地の冬の味覚、長芋やビーツなどの根菜類を活かした一皿。
左上/フレンチレストラン「Sonor(eソノール)」。
左下/コース前に、夏は渓流のせせらぎを、冬は雪景色を楽しみながらのアペリティフを堪能できる(プランによる)。
渓流のせせらぎに味わう冬のスペシャリテ~ 心身ともに響きわたる大地の恵み
そんな豊かな雪の世界をプライベートに体験できるのが、『星野リゾート奥入瀬渓流ホテル』の冬の滞在の醍醐味だ。しかし、この宿の冬の楽しみは自然とのふれあいに留まらない。三方向を海に囲まれた青森の大地の恵みと土地の人々の知恵が活かされた極上のフレンチもまた、自然の美と同様に私たちの心に潤いを与えてくれる。
心洗われる雪の情景に出合った後の至福のひととき。大地の恵みが、倍音のように五感に響き合う。輝く雪の美しさと、奥入瀬の女神ほだたちの微笑に絆された心が、さらに高鳴る瞬間に、心からの祝杯をあげつつ――。