佳き日のフィナーレを飾る百年の雫 ルイ13世

ピエレット・トリシェ氏
ティエルソン
/歴代のセラーマスターたちとともに。現・四代目セラーマスター、ピエレット・トリシェ氏(右)。コニャック業界初の女性セラーマスターでもある氏は、先代たちによって生み出され、蓄積されてきた1200種類ものブレンドを熟知しているという。彼らより受け継がれた膨大な知識をもとに、自らの手で新しいブレンドを生み出し、次の世代へとルイ13世を送り出すという重責も担っている。
/原酒の熟成には、ティエルソンと呼ばれる樹齢150年のオーク材の樽が使われる。トップノートが力強く艶やかなのも、この樽での熟成によるといわれる。

王のコニャック、コニャックの王とも称されるルイ13世。
百年の時の流れを感じさせる一滴の味わいは、かけがえのない日の想い出をいつまでも心に響かせてくれる。

 堂々たるデカンタの輝きは、その名にふさわしい高貴さに満ちている。豊富な石灰質を含むフランス、グランド・シャンパーニュ地方のテロワールが生み出した奇跡の銘酒。そのクリスタルの輝きの内面では、一世紀を経て熟成されたともいわれる数多の原酒の命が光を放ち続ける。その数、およそ1200種類。百年の時の流れを感じさせる深い味わいは、まさに出会うものに微笑みを与えずにはいられない。

 ESqUISSEのシェフ・ソムリエ、若林英司氏はこう語る。

 「ルイ13世の持つ力強さと艶やかさ、そして、グラスに注いだ時にそこはかとなく立ちあがるピュアな透明感には、はっとさせられものがあります。何層にも重なった香りの襞ひだが、完璧な熟成とブレンドによって一つの球体のように丸みを帯びている。このヴェールに包まれたまろやかさは、時間を追うごとに多様な姿を表してゆくのです」

 ルイ13世の妙は、まさにその丹念な熟成の技にある。レミー・マルタン家秘伝の醸造技術はもとより、1874年の銘酒誕生以来、代々のセラーマスターたちの深い愛情とストイックなまでの情熱によって、その眠りはたゆみなく見守られてきた。

 幸いにも現・四代目セラーマスター、ピエレット・トリシェ氏に話を聴くことができた。

 「たとえ私たちをとりまく自然環境やライフスタイルが変わったとしても、140年にわたって先代たちが守り受け継いできた伝統と様式から逸脱することは絶対に許されません。私のなすべきことは、神から与えられた自然と人類の歴史の結びつきともいえるこの仕事に謙虚に従事し、レミーマルタンの名のもとに仕えるのみです」

 ルイ13世は「神秘のコニャック」ともいわれる。長い熟成を経て昇華された様々な原酒の融合が、時間をかけてゆっくりと味わうごとに複雑に絡み合い、美しいこだまを奏でる。それはジャスミン、ナツメ、クルミなどの果実や花々の鮮烈な歌声に始まり、キャラメルやシガーの魅力的な誘惑にとらわれたかと思うと、白檀を思わせるような高雅で重厚な響きへと変わってゆく。芳かぐわしい調べが心に静かに染み渡る。

 一雫にこめられた百年の時を想い、特別な日の喜びを心に抱いてグラスをかたむける。

 王のコニャック、コニャックの王。佳き日のフィナーレを飾るにふさわしい”晴れ”の酒だ。

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