フルート奏者には美人が多い

今夜は、エキゾチックな美貌とクールでスマートな演奏で有名なフルート奏者の演奏会に招かれた。
この奏者とは一度ある雑誌で対談したことがある。5年くらい前の話だ。その後彼女はフランスに1年間の音楽留学をして昨年帰国した。そして全国を廻って演奏会を開いている。「チケットが手に入った」と音楽業界に勤める知人に誘われ、懐かしい気持ちで会場に向かった。「フルート奏者には美人が多い」。大学生の時まで吹奏楽をやっていた後輩がそう言っていたのを思い出す。そういえば彼の奥様も大学生の頃までフルートを吹いていたらしい。”音楽の実力とルックスを兼ね備えたフルート奏者はなかなかいない。彼女は日本を代表する人気の音楽家となるだろう”。そんな文章を書いて対談を締めくくった記憶がよみがえる。対談や撮影のため、彼女とは2度会った。爽やかな笑顔に、自分がだんだんと惹かれていくのが分かった。
演奏会の前夜、対談した時に交換した彼女の携帯番号に電話をかけた。番号が変わっていないことを祈りつつかけると、幸運にも2コール目くらいで彼女は電話に出た。いろいろと話したいと思ったのだが、翌日に演奏会を控えていることを考え短い会話をしたあと、明日の演奏会に行くことを伝え、その後食事でもいかが?と誘った。「演奏会のあとは関係者と食事をする約束をしているから、その後ならいいわ」と聞き覚えのある声で答えた。
“女性を待つ間に原稿を書く”という習慣はいつからついたものだろう。今夜もホテルである雑誌の連載原稿を書いている。このときめく時間こそ、一番筆が走る。そして、「まだかな」という逸る気持ちを抑えるのにもちょうどいい。来週そうそうに締め切りの迫った連載原稿を書く。

地方自治体による企業誘致の課題

どうやら、ギリシャに端を発するEUの通貨問題は落ち着きを見せたようだ。その影響もあり日本の株式市場は上昇基調になってきた。これを今後も続く回復と見るのか、一時的なものと見るかは判断の分かれるところだ。また円高傾向にも徐々に歯止めがかかってきた。これで、大手製造業の持つ工場の海外移転が減ってくれればいいのだが、そんな簡単なものでもないだろう。
地方自治体はここ10年くらいこぞって、大手製造業の工場誘致に奔走してきた。地域の雇用維持と税収入を増やすために、移転してきた企業に対して思い切った優遇策を取った。一部の地域でそれは成功したが、多くの自治体では移転先としての工場団地なるものを造成したのだが、その多くは空地のままだ。その工場誘致に成功したエリアでさえ、しばらく続いた円高により、生産停止を決断するところも出てきている。
このように雇用促進と税収入増加を目指した、地方自治体による企業誘致は大きな曲がり角に来ている。新しい発想が必要である。
そのポイントとして、立地に依存しない業務を考えなければならない。そしてさらに、その国の経済が進展し人件費が高騰すると結局製造業、製造することは外注し、研究開発に特化しなければならないという現実を知ることだろう。

原稿を書き終え…

時間になったので部屋を出て、約束のBARに向かった。すでに彼女はカウンターの席にいた。早速バーテンダーに注文をする。「私はギムレットを…」「… 僕はシンガポールスリングを」

乾杯をした後、他愛のない会話をした。2杯目を頼んだ頃、僕は彼女にさらに興味を持ち始めていた。南国産まれ特有の綺麗な黒髪と大きな瞳が綺麗だと感じた。そして、なんといっても爽やかな話し方が気に入ったのだ。「いつから、フルートを始めたの?」「中学生の時から。私ずいぶんと遅いの。でも毎日毎日家で練習していたの。時には近くの丘の上で。田舎育ちだから、誰にも怒られずにずっと吹いていた。都会のマンションでは出来ないよね。だから、今があるのかもしれない」「今日はどうして、僕の誘いを断らなかったの?」「そんなことは聞かないで。理由なんて全くない。例えば、明日誘われたとしたら、断ってたかも……」と微笑んで、グラスを手にした。

さらにもう1杯のカクテルを2人は注文した。「今日の私の演奏どうだった?経済アナリスト的なキレのあるコメントをして」と無邪気な顔で言う。「音楽の評論を出来る立場じゃないよ。でも、今夜の演奏に、ボクはとても感動した。心が躍った」「2曲目、〝フルートとハーブのための協奏曲.の途中に、私がちらっとあなたに視線を送ったのに気がついた?」「もちろん。気がついてたよ。あれはどういう意味?」「理由なんかない。ただ、あなたが寝ずにちゃんと聞いているかな、と思って」「今夜はずっと話していたいな。できれば時間を忘れて。部屋に来ない?」「いろんな女性をこうやって誘うの?今夜は、どうして私を?」「理由なんてないよ」2人は、手をつないでBARをあとにした。