歌舞伎を見るのは久しぶりのことだった。

若きスターが華麗に演じる定番の演目。
クラシックでよく聞かれる、「あの曲は○○が指揮、○○フィルが演奏したものが一番」 見たいなのが歌舞伎の世界でもあるらしい。ちょうど、この役が十八番のようだ。
日常的に演奏されているクラシックの曲はたいてい100年以上前に創られたものだ。モーツアルト、ベートーベン、チャイコフスキー…、著名な交響曲を書いた作曲家は100年以上も前に天国の人となっている。1つの作品をその時代の人が演奏し、その時代の聴衆を魅了する。大切に大切に。歌舞伎の演目も、クラシックと同じように受け継がれていく。歌舞伎の世界では、演じる者の気の持ち方・心構えまで受け継がれている。
歌舞伎の格式を高めた観阿弥・世阿弥の親子。世阿弥は有名な「風姿花伝」を著した。

一緒に見に行こうと誘われたのは1週間前のことだった。彼女と出会ったのはその3日前。それから毎晩、会話した。
彼女とは、気のおけない仲間とよく行くイタリア料理店で出会った。とても端麗な、〝涼しい顔立ち.と表現するのがこの上なくぴったりの女性だ。
機敏な動きで客のもとへ料理を届ける。高貴な気品と日本人離れしたセンスのいい笑顔を振りまいていた。彼女が動くところに、LED電球のような青く優しい光が当たっているようだった。それを意識するように、青と白のストライプのシャツを着ていた。
3人でワインを3本くらい空けた時、「いつも、ありがとうございます」と声をかけられた。「お話を聞いていると、かつてヨーロッパにお住まいだったのですか」と話しかけられた。「ロンドンに大学院の時にいました」と答えると、彼女は「私は大学からずっとパリに。昨年帰国したんです」。
閉店間際だった。こうしたきっかけから話が弾み、一緒に飲み始めた。話はたわいのないものから、だんだんと深刻なユーロ通貨危機の話に及んだ。

続くヨーロッパの金融不安

2012年、世界はヨーロッパの金融不安に気を揉むことはまちがいない。日本もその例外ではないだろう。欧州各国の国債格付けが軒並み低下している。日本国債の格付けも同様に低下している。これまで、最高ランクを付与してきた日本国内の格付け機関でさえも、12月クリスマス直前に格下げを行った。先進各国の基準金利はどこも史上最低に近い水準で、「借りてください。投資してください」の状態なのだが、どこに?何に?という状況なのだ。
世界的に経済が混迷している。かつての中国のような「あの地域は好調」という国も見当たらない。
アフリカへの投資が急増し始めているようだが、まだまだこれからという段階であろう。新しくこれから大きく成長する地域、投資して結果が出そうな事業を模索している状況なのだろう。

2012年日本経済のゆくえ

2012年、日本こそが世界経済の牽引役になって欲しいものだ。
話は日本の政治に移っていく。
影響力がある某政治家が、2012年中に衆議院選があるだろうと言った。しかし、大方の見方は、「今のように民主党に逆風が吹いている間は、解散総選挙となると完敗が眼に見えているから、そう簡単に解散せず任期満了近くまでいくのではないか」だろう。
おいしいワインと生ハム、チーズを食べながら話は尽きない。

「秘すれば花」

「以前、パリに日本の歌舞伎が公演にきたとき、すぐにチケットを入手して、1人で見に行ったの。日本では見たことがなかったのに」「フランスは親日の国だから相撲・歌舞伎などいかにも日本的なものは大人気。パリの街と日本文化はとてもマッチするんだと思う」
深夜の電話で彼女はそう言い、今夜こうして2人で席についた。
舞台を踏む時の音。その場にいた者にしか伝わらない臨場感があった。あっという間に時間が過ぎさり、幕が下りた。

二人で食事をして、ホテルのBARで語り続けた。彼女はフランス・パリでの自らが体験した出来事を、昨日のことのように話している。その輝く瞳をまっすぐに見ていた。「どうしたの?」と聞かれたが、すぐに返事できなかった。そして彼女は爽やかな笑顔でこちらを見た。

二人はエレベータに乗った。
ホテルの部屋からは無数の青い光が見えた。二人でそれを見た。今夜の彼女には 「秘すれば花」 という言葉を忘れて欲しい。