コンラッド東京ホテル
2000年以降、東京には外資系高級ホテルがいくつも建てられた。日本においても外資系金融企業が頭角をあらわし、金融ビジネスに携わる欧米人たちの日本滞在が増えたのもこのころからだ(日系金融企業からも多くの人々が引き抜かれていった)。こうした欧米人の宿泊やカンファレンスなどをメインターゲットにしたホテルが、東京のど真ん中にいくつかオープンした。ヒルトンホテルの最高級ブランドであるこのコンラッドホテルも2005年にオープンした。
夕方から、このホテルで約200人の聴衆に向けての講演会が行われ、その後は懇親パーティーが催される。「2011年の不動産景気予測」と題した講演会で、大物大学教授や著名アナリストに交じり、その講師の1人としてよばれた。
コンラッドと名の付くホテルは、これまでシンガポールで泊まったことはあるが、ここには宿泊したことがない。締め切りの原稿が溜まっていることもあり、講演終了後、そのままここに泊まることにした。
講演開始の1時間前に控え室に入り講演資料を整理していると、スタッフに連れられ司会の女性が挨拶にきた。「よろしく、お願いします」と目を合わせて、彼女がニコっと笑った。彼女が司会を担当する講演会で話すのは、今年3回目だ。以前彼女は、地方局の局アナをしていたのを辞め、司会の仕事をしているのと話していた。
レジデンス投資は長期スパン
講演会では、人口動態と賃貸物件の相関性について、ここ5年間のデータに基づいて行った分析結果を詳しく話し、賃貸住宅の今後を予測した。少々専門的ではあるが、レジデンスへの投資に際して重要な視点だ。
司会からの紹介の後、会場からの拍手に迎えられて演壇に上がった。
生産者年齢人口( 15~64歳)の変化率と世帯数の変化率は、負の相関関係にある傾向が強い。世帯数の増加が、新しい家庭の増加を意味することよりも、高齢者の単身世帯が増えていることを意味していると読み取れる。
また、住宅着工戸数の変化率と地価の変動率は概ね正の相関関係にあるが、坪当たり賃料単価は負の相関関係にあるエリア(県単位)も多い。これは、賃料水準の変化は地価や住宅着工数に比べて、その変化が遅れて変化することを意味する(遅行指数)。このタイムラグは投資に影響を与えることとなる。日本全体の人口はすでに減少に転じ、世帯数はあとしばらく増えるがこれも減少する。レジデンス投資は長期スパンだから、こうした状況下での投資には、テクニックがいる。
商業施設への投資が盛んなヨーロッパ、レジデンス投資が盛んなアメリカ、オフィス物件を中心に投資をしてきた日本。そうした特長が今では崩れている。日本での大口不動産投資も安定性が高いレジデンスに向かい始めている。レジデンス物件中心のJ -REITも最近誕生した。こうした流れは加速するだろう。
ニューヨークシティー セレナーデ
持ち時間50分の講演はあっという間に終わり、懇親パーティーが始まった。面識ある方々と軽く談笑していた。そしてその場から離れると、彼女が近づいてきた。「先ほどはお疲れ様でした。私もちゃんと聞いていましたよ。こうしたパーティーでお話しするのもこれで3回目ですね。前回は、飲みに誘ってくれたけど今夜は?」と話す。
こうした場はあまり得意でなく、適当な時間で切り上げようとしていた。「このパーティーが終わったら、上の階で飲もうか。ボクは先にここを出るよ。おいしい赤ワインを用意して待っている。部屋番号はこれだから」と言って、メモを渡した。
部屋に戻ってから約1時間。
黙々と原稿を書いている。明日が締め切りの連載原稿が1本。そして月末までに提出しなければならない研究論文が1本ある。自分でも驚くような集中力だ。このあとの時間のイメージなど全く抱かず、夢中でパソコンのキーをたたいている。つい10分前までアルコールを体に入れていたとは自分でも思えない。これは若い頃に鍛えられた力だ。先輩に〝クライアントの方と飲んだあとも、会社に戻って仕事しろ〟と何度も言われた。それが活きている。原稿にいったんの区切りをつけ手を止めて、少し窓の外を眺めた。
きれいな夜景が見える高層階の部屋だ。Christopher Cross の”ニューヨークシティーセレナーデ”がとても似合う景色が広がる。東京の夜景は世界でも有数なのではないか、そう感じる。
部屋のチャイムが鳴った。部屋においてある、キングダックが見える。
ボクは席を立ち、鏡を見た。
そして、ドアを開けた。