偶然―、の再会

プレミアムクラスは満席だった。羽田空港を10時過ぎに飛び立つ沖縄便は観光客も多いが、エグゼクティブの人達も多い。
機内に乗り込み席に座るとCAが挨拶に来る。「本日はありがとうございます。お上着をお預かりしましょうか?」。顔を上げて声の方に目をやると、「あっ」と声が聞こえた。先週、知人達と飲んでいる時に一緒だった女性だ。
公認会計士の知人はあらゆる方面に顔がきく。彼は毎晩、仕事と称して六本木の夜を楽しんでいる。そんな彼が誘った30歳前後の女性は、こうした仕事をしている女性にありがちな、お高く留まった様子のない、気さくなCA達だった。そんな中で最も気さくで、隣の席に座っていたのが彼女だった。気が合ったのか、会が始まってからしばらくして、すぐに連絡先を交換した。
飛行機を降りる直前。上着を返すのと一緒にメモをもらった。「仕事、終わったら連絡して。こちらは16時以降ならOK」ときれいな字で書いてあった。僕はきれいな字を書く人が好きだ。人間性が出ると思うし、何より育ちの良さが感じられる。フォークやナイフを持つのは上手いのに、箸を持つのが下手だったり、字がきたなかったりすると、幻滅してしまう。
僕は、アイツに電話を掛けた。「今日の夕方から、船を出せないか?」とお願いするような声で言った。
「今日はヒマだからいいよ。でも5万円だよ」。
「うそだよ。でも、今度おごれよ。美味しいお寿司な。で、今日のお相手はどんな女性なんだ?」。
「それは、ご対面してからのお楽しみ」。
アイツは頼りになる。
先日彼女と初めて出会った時、「結構な頻度で飛行機に乗るんだよ」と僕が言うと、彼女は「じゃ、偶然会えるかもしれないね」と小さく折りたたまれたメモを見始めた。そこで、僕もスマホを見ながら、スケジュールを付け合せた。「あー、その日おしいなぁ。その1つ後の便だよー。その日STAYなんだけどなー」と彼女は笑った。
その日、僕はスケジュールをやり繰りして、その日1便遅らせて、偶然を装った。
「意中の女性との偶然は、自ら作るものだ」が僕のポリシーだ。

マンションは買い時か

来週から、いくつかの新聞社主催の講演会での講演が始まる。「いま、分譲マンションは買い時か?」というタイトルで、マンションデベロッパーがスポンサーとなっている。これから分譲マンションの購入を検討されている一般の方々向けの会だ。 「いま、買い時か?」と問われると、「そろそろ買おうか」と考えている人にとっては、「そう」と言えそうだ。特に東京都心ではそう言える。
その1つ目の理由は、新築マンションの販売価格が徐々に上がり始めていること。
年初から売り始めて現在販売中の物件価格と、最近販売を始めた物件価格ではかなりの値上がり感が感じられる。これは、土地仕入れ値の上昇、労働人件費の上昇、製造原価の上昇などが要因だ。
そして、2つ目は、住宅ローン金利の行方が不透明なこと。
景気回復にともなう、金利の急激な上昇はないと思われるが、国債の金利は上昇している。大幅な上昇はないと断言できるが、不気味さがあるため、現在の超低金利の間に購入しておくのも手かもしれない。
僕の周りでも、いまマンション購入を検討している知人が多い。不動産の売れ行きはムードに引っ張られるところが大きく、価格は上昇し始めると、中々上昇基調が収まらない。もちろん、その逆も言えていて、下がりだしたら中々止まらない。
こうした話を1993年から20年間を、データを見ながら振り返り、「いまが、買い時か?」を参加者に考えてもらう事にしよう。

海に浮かぶ船の上で

彼女はタクシーに乗って待ち合わせの港にやってきた。青のTシャツにホットパンツ。夏らしい恰好だった。長い髪が綺麗だ。
「さぁ、乗って」と僕は、彼女の手を持ち船に導いた。「じゃ、出航するぜ」とサングラスをかけたアイツが言った。「すごい、美人じゃないか」と船長は聞こえるように言う。
夏の17時すぎの沖縄は、まだ陽は高いが、心地よい風が吹く。船の上なら、なおさら潮風は強く、暑さを忘れさせてくれる心地よさを味わえる。
30分くらい船を走らせたところで、停泊させることにした。スパークリングワインの栓を開け、用意しておいた簡単な料理に手をつけた。「こんな所で飲むお酒は最高ね」。青いシャツが風に揺れている。機内の彼女より、海の上の彼女は100倍魅力的だ。
少し離れた所で作業をしているアイツが、俺の方を見て笑った。
しばらくして、小さな声で彼女は言った。「同じホテルに泊まっているんでしょ。帰ったら、続きのワインを飲もうかな。部屋に行ってもいい?」。
僕は、うれしくなって、「どんな、ワインが好きなの?」と彼女の瞳を見ながら聞いた。
「友達も連れて行くから、たくさん用意していてね」。

沖縄の海は、どこまでも透き通っていてきれいだ。
「いま、マンションは買い時かな?」。