オーストリアと日本を結ぶ
2022クラシックの夕べ
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文/田中晃 撮影/杉能信介

ヴァイオリニスト
ヘーデンボルク和樹
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ピアニスト
森 泰子

profile

ヴィルフリート・和樹(かずき)・
ヘーデンボルク

オーストリア・ザルツブルク生まれ。父はヴァイオリニスト、母はピアニスト、3兄弟すべてが音楽家という一家に育つ。モーツァルテウム国立音楽大学を最優秀の成績で修了後、 ウィーン市立音楽大学を首席で卒業。タデウス・ヴロインスキー・ソロ・ヴァイオリン国際コンクール1位受賞等賞歴多数。現在、ウィーン・フィルの 正団員で、ソリストとしても積極的に活動する。

profile

もり・やすこ

スズキメソードの鈴木祐子氏、安田正昭氏に師事。慶応義塾大学経済学部に進学後、演奏活動を始める。卒業後は企業で働くかたわら、室内楽の演奏会、チャリティー公演などに出演。最近では、ヘーデンボルク和樹氏とのデュオで、各地で演奏会を開催。 また同氏と共演したベートーヴェンのバイオリン・ソナタの 初CD が昨年11月に発売された。

[Part1]
2人の音楽家が語る邂逅と共演

「清新さを追求する一方、楽譜に忠実に作曲家の思いを誠実に伝えて行けたら」と語るお二人。偶然の出会いによって巡りあった演奏家が珠玉の音色を奏でる。

[今、ベートーヴェンのソナタに対峙する理由

譜面に忠実に、そして素直に演奏することがミッション

−お2人の出会いは?
森泰子さん(以下、森) 2018年にウィーン・フィルの来日公演を聴きに行ったことがきっかけです。公演後、共通の知人を通して、出演されていた和樹さんを紹介していただきました。その時に音楽の話で意気投合し、翌年、来日のタイミングで一緒に演奏しようと言ってくださいました。さすがに社交辞令かと思ったのですが、2019年の和樹さんの来日の際に本当に一緒に弾く機会をいただき、そこから何度か演奏会を開催するに至りました。
−先頃ヴァイオリンソナタ第5番「春」のCDが発売されましたね。
へーデンボルク和樹さん(以下、和樹) ベートーヴェンのソナタを録音すること自体やっていいことなのか悩みました。数々の巨匠が遺芳というべき名演を残していますから。しかしながら、私にとってベートーヴェンはとても大切な作曲家。ザルツブルグに生まれウィーンに住み音楽に携わっている以上、ウィーンの伝統、ウィーンクラシックの重大な一部を世界に録音というメディアを通し伝え、残したいと思いました。作曲家の思い、感情や感動など全てが託されている楽譜に新鮮に向き合い、理解を深められるよう、今まで使用していた譜面は使わず、新たな譜面で挑みました。
−通常、「春」はベテランのピアニストと演奏することが多いという話を聞きましたが、フレッシュな森さんと組んだ理由は?
和樹 泰子さんは譜面や音楽に対する姿勢が大変立派です。昔、書いたというエッセイも読ませていただきましたが、ぶれずに一貫していてスコアに忠実な音楽作りができると思い、お声を掛けさせていただきました。
森 ありがとうございます。中学時代のエッセイなのですが、音楽が大好きで計算も打算もなくただ純粋に音や響き、本質的な豊かさに向き合い、ひたむきに音楽を続けていきたいと綴っております。
ー森さんからご覧になって和樹 さんの音楽の魅力はどんなところでしょうか?
森 ソロ演奏を聴いた時、まず音色の幅に感動しました。可憐でキラキラした音、激しく荒々しい音…。日頃、名門オーケストラで活躍されているので音の彩りが豊か、カラフルなんですね。ヨーロッパで生まれ育ち、演奏会で世界中を旅されている和樹さんとでは見てきた風景もその数も違うので、私はいかに想像力でカバーするかが課題です。おかげで日常張っているアンテナも少し広がりました。

ソナタ第5番「春」はソナタ全集のプロローグ

−ベートヴェンのヴァイオリンソナタ全集を出す予定があるとか。
和樹 はい。理想ではひと息に録音するのがベストでしょうが、ホールの確保、お互いの予定以外に気力と体力的にも大変難しい。ですから全集完成時で10曲まとまる事を忘れず、ベートーヴェンの前期、中期、後期を念頭に入れながらソナタ全曲を大きなひと息で流れを感じながら作れば良いのではと思っています。
ー録音から、1年と少し近く経ちましたが演奏には変化がありますか。
和樹 ザルツブルク郊外の音楽一家に日本人ハーフとして生まれ、自然に囲まれて毎日を過ごした私と、森さんでは育った環境や文化の違いもあり、リハーサル中すぐにはしっくりこないこともありました。共演を重ねてはリハーサル時の本題以外にも色々と思考を交換しあい、しばらく眠らせていた音楽を再度引き出してはより奥深く追求することで成長を体感。ひたすら練習に励むのではなく、少し休ませることで自然に熟することもあると意識し、信用することも大事なことです。録音からだいぶ経っていますが、その間に影響された演奏の変化は、大変うれしい経験です。
森 「春」と言っても散りゆく桜の春は日本人にとって少しはかない印象がありますよね。ヨーロッパでは“切ない印象”はないと思います。作曲家が感じたヨーロッパの春に寄せることも、何もせず“少し寝かせる”ことで素直に表現できるようになった気がします。

失敗も困難も人生に無駄はない。すべてが音楽の糧になる

−今後の抱負を教えてください。
和樹 当然ソナタ全集の完成に向けていきたいですね。このCDが出るまでパンデミックによる国際渡航、入国など難問は多く度々、気力的に限界を感じましたが、無事乗り越えて振り返れる今、この経験がいかに人間的に成長する大事な1コマだったのかと実感。何事にも意味も理由もあり、無駄ではなく、たとえすぐに結果に結び付かなくても、積んでいく経験は皆私達の音楽の糧になるのは確かです。今回の収録でマイクの前に立ち、テイクごとに一回勝負と本気を出し切ったつもりが、実際はまだまだいけたなという実感も振り返ってみて重要、かつ欠かせない経験です。音楽、人生の経験全てを生かし、切ない理想の追求の道を今後も辿っていきたいと思います。
森 日々、会社員として仕事に追われていると、音楽との両立を諦めそうになることもあります。ですが、色々な困難や経験も音楽の糧になるという芸術の真髄や理想を和樹さんから学びながら、これからも音楽を続けていきたいと思っています。

「音楽を通じて世界がひとつに。そうした機会になれば」

「CDなら国籍、年齢、経済力を問わず、国境を越えてみんなが対等に音楽を享受できる。それは最も大切なこと」と語るヘーデンボルク和樹さん。

「ヨーロッパの感性を教えていただいたことは得難い経験」

「録音は無観客のホールで。直接、自分の音に向き合うと粗も目立ち、すっぴんで拡大鏡の前に立たされている気分でした(笑)」と話す森さん。

[Part2]
麗しの調べに酔う華やぎの饗宴

旧ハンガリー大使館Q.E.D.CLUBの バンケットルームで演奏するヘーデンボルク和樹さん(左)と林泰子さん。左後ろには写真家としても活躍する和樹さんの作品も展示されて。

錦秋の夕べに奏でられるサロンコンサートの集い

昨年11月22日、都内Q.E.D.CLUBにて、パート1でご紹介した、ウィーンフィルでも活躍するバイオリニスト、ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクさんと、ピアニスト、森泰子さんのデュオの演奏を楽しむパーティが行われた。

お2人のデュオとしては初めてのCDが発売直前ということもあり、クラシック音楽ファンはもちろん、素敵な音楽とともに秋を楽しみたいという方々が集まった。
おしゃれの秋にふさわしく、きものやドレスなどエレガンスな装いに身を包んだお客様で華やいだ雰囲気に包まれ、盛会を予感させる開場に。ウェルカムドリンクには、サステナブルを意識した伝統的な製法で知られるシャンパーニュメゾン・テルモンの「テルモンレゼルヴ・ブリュット」が供された。着席前は、東急百貨店渋谷本店が協賛する高級時計やジュエリー、ワインなどの展示もあり、内容も盛りだくさん。
お2人が登場するといよいよ期待も最高潮に。CDにも収録されているベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」の第1楽章を筆頭に6曲ほどを演奏。ヘーデンボルク和樹さんのヴァイオリンに森さんのピアノが瑞々しく呼応し、珠玉のメロディに参加者は素敵なひと時を堪能したようだ。



上/会場内には、ハイジュエリーや時計の展示ブースが。写真は世界中のセレブリティから愛され続ける「バックス&ストラウス」のジュエリーウォッチ。下/ウェルカムドリンクに選ばれたのは、サステナブルアプローチで新しい時代を切り開く「テルモン」社のシャンパーニュ。

Party Scene















①華やかな宴を予感させるテーブルセッティング。②今回のイベントをPAVONEと共にプロデュース頂いた平尾恒明氏。 ③パーティの最後にはクリスマスグッズや宿泊券がプレゼントされる抽選会も開催された。1等の宿泊券が当たった方(左)と。④それぞれ個性豊かなおしゃれでパーティーに参加。⑤時計やジュエリーの展示ブースを熱心にご覧になるお客様も数多く。⑥会場となったQ.E.D.CLUBで行われたパーティ風景。⑦鮮やかな色を巧みに使いこなし、思い思いのスタイルを楽しまれていたゲストの方々。⑧演奏者の2人(中央)と記念撮影を行うゲストの皆様。⑨音楽ファンも数多く参加。各テーブルでは音楽の話に花が咲いた。 ⑩⑪Q.E.D.CLUBの美しいガーデンでウェルカムシャンパンを楽しむ、ドレスアップされたゲストの皆様。

演奏されたお2人のCDがリリース!

昨年、11月ヘーデンボルク和樹さんが、森泰子さんをパートナーに迎え、パーティでも演奏されたソナタ「春」を含むCDが発売。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集へ向けて始動した。