ラグジュアリーリゾートの新潮流
Sustainable Hotels & Resorts
セコイアの森に抱かれたカリフォルニア州にあるPost Ranch Inn。深い緑と隣り合わせの非日常の空間にいると、余計な力が抜けて心が整っていくよう。
旅先のホテルを選ぶ際、近年、重視されるようになっているのが、そのホテルが環境や社会にどのように配慮しているかということ。すでに意識の高い富裕層たちは、豪華さや煌びやかさだけに惑わされることなく、環境や社会問題に対して積極的に責任を果たそうとするホテルを選択し始めています。ラグジュアリーホテルならではの唯一無二の優雅な滞在を満喫しながら、ゲストの一人としても持続可能な社会の実現に向けた取り組みへの参画意識を共有できる―。そんなサステナブルホテルの主な取り組みをご紹介します。
※本特集は PAVONE vol.67(2023年7月発行号)の内容を一部改編して再掲しております。
California, U.S.A.
Post Ranch Inn
ポスト ランチ イン
セコイアの森と太平洋の波に囲まれた
知る人ぞ知る人里離れた隠れ家ホテル
Photography by Kodiak Greenwood
ビッグ・サーの崖の上に広がる「ポストランチイン」。夕刻を迎えると息を飲むほどに美しいサンセットが目の前に現れる。
自然保護や地域社会への貢献、文化の多様性の尊重など、持続可能な社会の実現を目指す上で、規範となるべくホテルの一つとして「ポストランチイン」は「ビヨンドグリーン(Beyond Green)」に加盟しています。人々と地球のために、より明るい未来を築くことを目的として2021年に立ち上がったこのサステナブルホテルブランドには、現在、世界の国と地域から選ばれた40のホテルが加盟。それぞれが「環境に配慮した秀でたオペレーション」「自然と文化遺産の保護」「地域社会の社会的・経済的な発展に貢献」というサステナブルツーリズムの3本の柱を実践しています。
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(1)照明が灯されたレストラン「シエラ・マール」。夕刻、霧深いセコイアの森のなかに浮かび上がる様子はいかにも幻想的だ。(2)アッパーマウンテンハウスのデッキの目の前には手付かずの自然が広がり、まるで森の中にいるような気分になれる。遠くに聳える山々の絶景も滞在の楽しみの一つ。(3)円形構造のパシフィックスイート。プライベートデッキには屋外バスタブが備わる。広大な海を望みながらの入浴は格別な時を約束してくれる。(4)アッパーパシフィックスイートは開放感が魅力。ソファに腰をかけ、ゆったりと穏やかな大海原を眺めているだけで幸せになれる。なお、どの客室でも節水や廃棄物の削減のためのアメニティなど環境への取り組みが反映されている。(5)レストラン「シエラ・マール」では地元の食材や自家農園で育てた食材を巧みに調理。地元からの食材の仕入れにこだわることで地域経済の発展に貢献しながらも、芸術的なひと皿に仕上げる。
絶景の地のサステナブルリゾート
「ポスト ランチ イン」があるカリフォルニア州のビッグ・サーは陽光に煌めく太平洋の海岸線にサンタルシア山脈の断崖が迫り、壮大なドライビングロードが延々と続く絶景の地として知られる。
元々は西部開拓者であるポスト家が代々所有する牧場だったが、1992年にこの地でポストランチインが開業すると、雄大な自然に抱かれたホテルは著名トラベル雑誌の表紙を飾り、さっそく世界で最も美しいホテルの一つとして脚光を浴びることになった。同時に早くから環境保全の最前線に立ち、周辺に生息する動物や植物、自然の保護に積極的に取り組み、業界におけるリーダーとしての役割を担ってきた。
美しい自然に抱かれた土地を管理する者の責任として、ホテルの取り組みの根底にあるのは、「地球環境にとって良い行動は、ゲストの経験にとっても良いこと」という考え。ホテルの環境への取り組みは、そこに滞在するゲストと無関係というわけでは決してなく、密接に関わることで唯一無二の経験を提供する好循環を生み出そうとしているのである。
ゲストに人気のツリーハウスの存在は好例だろう。地上3m近くに設けられた野趣あふれる高床式の客周囲に立つセコイアやオークの木の壊れやすい根の部分を保護することを目的に建てられたという。貴重な樹木を守ろうという取り組みが、結果としてゲストに冒険心を刺激する特別な客室を用意することになったというわけである。
ポスト ランチ インに滞在するゲストだけが体感できる特別なご褒美として、客室のテラス席やスパルーム、レストランなどから望む自然景観の美しさは何よりも魅力的だ。豊かなセコイアの森をはじめ、その眼下に広がる太平洋の大海原を眺めているだけで、忙しない毎日に疲弊した心が癒され、体が整っていくのを実感できる。
実はこのセコイアの森には数多くの固有種や希少な野生動物が生息し、なかには絶滅危惧種に指定されるカルフォルニア・コンドルもその勇猛な姿を見せることがあるという。こうした野生動物の故郷として、周囲の自然をありのままの姿で残してげたい―。そんなホテルの思いは、約40万㎡という広大な敷地のうち、9割に及ぶ土地を保護地域として手を付けずに残すという決断に至った。この自然に対するアプローチもまた素晴らしい景観を残したという意味において、環境への取り組みとゲストとのポジティブな関係性を示す一例となっている。
滞在のクライマックスとなるレストランでの食事も環境や地域への配慮を欠かすことはない。数々の受賞歴を誇るレストラン「シエラ・マール」では持続可能な漁業を支援し、地域経済の発展を常に念頭に置きながら、テーブルを囲むゲストたちの期待を超えるひと皿でもてなしてくれる。地元の漁師や農家、ファーマーズマーケットから直接仕入れた素朴な食材の数々が、シェフの創造力でどのようなメニューとして昇華されるのか、五感を研ぎ澄まして味わいたい。
太平洋に沈む夕日を眺めながら、豊かな食材に恵まれた地元ならではの味を堪能し、食後は客室のテラス席で海からの風に吹かれて心と体をリセットする。自らの手で守られた自然の恩恵を全身で受け止め、サステナブルなリゾートが目指すべき理想の姿を存分に体感してはいがだろうか。
Information
Post Ranch Inn
47900 Highway 1, Big Sur, CA,U.S.A.
TEL +1-831-667-2200
https://www.postranchinn.com/
Beyond Green
https://staybeyondgreen.com
Chinatown, Singapore
PARKROYAL COLLECTION Pickering, Singapore
パークロイヤル・コレクション・ピッカリング
建物全体に省エネ機能を組み込んだ ガーデンシティのアイコン
Photography by PARKROYAL COLLECTION Pickering, Singapore
パークロイヤル コレクション ピッカリング シンガポールはまさに豊かな植物と同化するよう。
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(1)4層にわたって設けられたスカイガーデン。熱帯の植物が生い茂り、そこが都会の真ん中であることを忘れさせてくれる。なお、ホテルでは自然光を取り入れることで、照明の消費電力を削減するという。(2)16階建ての建物のうち、1フロアがウェルネス専用に。プールサイドテラスで南国のリゾート気分を味わいたい。(3)屋上ファームでは野菜や果物、ハーブなど、50種類以上の植物を栽培。収穫したものはレストランやバーで積極的に使用される。
大都会に現れた南国の楽園
「ホテル・イン・ア・ガーデン」という斬新なコンセプトを掲げて誕生してすでに10年が過ぎた。シンガポールの中心部、シンガポール川沿いの活気あふれるウォーターフロントにひと際目を惹く姿で佇む全体を緑の植栽で覆われた建物は近代的な大都市の中に突如現れた熱帯の森のよう。その斬新なデザインと最先端の技術を駆使した環境への取り組みで、ガーデンシティとしてのシンガポールのアイコンとなっている。
建物の設計を担ったWOHAは、バイオフィリックと呼ばれ自然を意識したデザインで国際的に高く評価されている気鋭の建築家デュオ。建物外観を覆い尽くす象徴的なプランターウォールをはじめ、1万5000m²を超える天空庭園や屋上ファームなどを施設内に配し、自然と共にある空間を創り上げた。
環境への配慮も欠かさず、それはホテル施設内の機能面で徹底する。施設全体に省エネ機能を取り込むことに成功し、太陽光発電システムの採用や雨水やリサイクル水を利用した節水プログラムなどを実施しているのだ。こうした取り組みが評価され、長年にわたってワールド・トラベル・アワードによる「世界をリードするグリーン・シティ・ホテル」の栄誉を獲得する他、近年では持続可能な観光におけるグローバル基準を達成し、GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)の認定も受けることとなった。
367室ある客室のインテリアは、どれも穏やかな緑と天然木の味わいを特徴とし、自然に抱かれたような快適さを実感できる。自然の豊かさはオープンキッチンのコンセプトレストラン「ライム」でも体感したい。ここでは毎朝、50種以上の野菜が栽培される屋上ファームから収穫したばかりの野菜や果物が届けられ、自然の恵みを活かしたこだわりの料理でゲストをもてなしてくれる。なお、ホテルはシンガポール食品庁による「Farm-to-table認定プログラム」の第2層の認定も獲得。食の分野においてもサステナブルな活動が高く評価されている。
自然主導の空間やエココンシャスな料理を通じて、これからの時代のホテルのあり方を提案するパークロイヤル・コレクション・ピッカリング。ガーデンシティとして世界の先端を歩む国の、さらに先を行くホテルで、新しい時代の贅沢な滞在のスタイルを堪能したい。
Information
PARKROYAL COLLECTION Pickering, Singapore
3 Upper Pickering Street, Singapore
TEL +65-6809-8888
https://www.panpacific.com/pickering
Lamego,Portugal
Six Senses Douro Valley
シックスセンシズ ドウロバレー
雄大な渓谷を望む丘の上
ワインの名産地で至福の休日を
Photography by Six senses Douro Valley
ドウロ川に沿うように佇むシックスセンシズ ドウロバレー。 周辺環境の穏やかな雰囲気に心身ともに癒されるよう。
(1)地元の木材による家具が配されたワインライブラリー&テラス。ここではセルフサービスでワインのテイスティングを楽しめる。石造りのテラス席でワイングラスを傾けるのもおすすめだ。(2)モダンなインテリアで統一された2ベッドルーム・プールヴィラのリビングルーム。庭にはプライベートプールが備わり、誰にも邪魔されることなく、優雅な時間を過ごせる。(3)レストラン「ヴァーレ・デ・アブラオ」では季節の郷土料理に舌鼓を。(4)ガーデン・トゥー・テーブルのコンセプトのもと、自家栽培のオーガニック野菜などを使用した料理がレストランで提供される。(5)シックで落ち着いた雰囲気のレセプションでスタッフがゲストを迎える。この空間でも木材や石材などの環境に優しい素材が使用されている。(6)2万2000m²の広大な敷地に10のトリートメントルームをはじめ、ウォータージェット付きの屋内温水プールや屋外温水を備えるシックスセンシズ スパ。トリートメントルームからの景色も心身の癒し効果をもたらしてくれそうだ。
自然派ブランドの底力
ユネスコの世界遺産に登録されるドウロ渓谷。悠々と流れるドウロ川を望む丘陵には辺り一面に葡萄畑が広がり、ここが世界に知れたポルトガルワインの名産地であることを教えてくれる。時を経ても変わらない手付かずの自然が広がるなか、19世紀に建てられた歴史薫るマナーハウスがこれから始まる極上の滞在の舞台となる。
全71室の客室は、伝統的な様式にシックスセンシズならではのナチュラルなスタイルを反映した現代的なタッチが融合し、落ち着いた大人の雰囲気を創り出している。秘密の庭園につながる専用の木橋を備えたスイートルームやプライベートプールを備えた隠れ家のようなヴィラなど、それぞれに個性的な客室がラインアップするので、お好みに合わせて選択するのも楽しいだろう。定評のあるシックスセンシズ スパは、ここでも地元の風土にインスピレーションを得たセラピーを提供している。ワインの産地ならではの葡萄や柑橘系の果物を使用したトリートメントはその一例だ。2万2000㎡にも及ぶ広々としたスパエリアには、屋内温水プールや最新のエクササイズ機器が揃うジム、屋外ヨガデッキなどが完備され、シックスセンシズスパの醍醐味を味わえるはずだ。
現在、シックスセンシズは世界19の国と地域に25のプロパティを展開している。それぞれが地域コミュニティとの共生を前提に、積極的にサステナビリティ活動に取り組み、節電や節水、地域社会の活性化や文化遺産の保護などで効果的な結果を残している。また、絶滅危惧種の保護やその生息地の保全にも力を入れるのは、シックスセンシズがそうした生き物が周辺に生息する貴重な自然のなかにあるからこそ。ドウロバレーでも絶滅の危機にあったミランダロバという固有種の保護活動に取り組み、その個体数の回復に大いに貢献しているという。
恵まれた自然のなか、郷土の美食を地元のワインと共に堪能し、至福のスパで癒され、開放的な客室でリラックスして過ごす。こうしたドウロ渓谷での優雅な体験の延長線上に、地域社会や環境保護活動があることを知れば、滞在して味わう幸せな気分もまた、いっそう大きくなるのではないだろうか。自然と共にあるブランドの矜持を体感したい。
Information
Six Senses Douro Valley
Quinta de Vale Abraão, Samodães 5100-758 Lamego, Portugal
TEL +351-254-660-600
日本語対応 TEL 0120-677-651(IHG ホテルズ&リゾーツ)
https://www.sixsenses.com/en/resorts/douro-valley