1400年以上の歴史を誇る由緒正しき湯と清きせせらぎに憩う
界 秋保
撮影:中本浩平
昨年4月、仙台の由緒ある名湯 秋保温泉に新たに『界 秋保』が開業した。古墳時代に開湯されたという太古から紡がれ続ける秘湯の恵みと伊達藩の粋な文化を体感するダンディな宿。澄みわたったせせらぎとともにある秘伝の名湯と宿滞在の魅力をお伝えしよう。
〝杜の都〞の奥座敷。
仙台駅から車で約40分。〝仙台の奥座敷〞とも呼ばれる秋保温泉は12〜13世紀に即位した順徳天皇(1197〜1242)によって長野県の別所温泉・野沢温泉とならぶ日本三大御湯(みゆ)と認められた由緒正しき温泉地だ。あの伊達政宗もこの温泉地で戦の傷を癒したという。
温泉街の入り口からさらに車で5分ほど。『界 秋保』が見えてくる。清らかな流れを抱く名取川沿いにたたずむ品格ある宿は、木々に囲まれ、新緑の美しさ、紅葉、そして冬景色と、四季折々のみずみずしい情景に彩られる。特に仙台は〝杜の都〞と称されるだけに、新緑の季節は圧巻の美しさを湛えるという。
驚くなかれ、この名湯の開湯は中世期即位した順徳天皇の時代からさらに遡り、6世紀頃、古墳時代とされている。ほぼ1400年以上にもわたって日本の、そして日本人の健やかな健康と精神を見守ってきた稀有な温泉場なのだ。
今回、その名湯の魅力を語るに、日本全国の温泉地をかけめぐり、泉質評価の専門家・大学研究員なども務める北出恭子氏とともに旅し、その魅力を語ってもらった。
「秋保の湯が誇る塩化物泉を一言で言い表すと〝熱の湯〞。ナトリウムやカルシウムなどの成分とともに肌の上に膜を作り、体内の成分や熱を閉じ込めるため保湿・保温効果が高いのが特徴です。そして、心理的なストレス軽減というリラックス効果も明らかになっています。
さらにPHが弱アルカリ性のため余分な皮脂や角質をやさしく適度に取り除いてくれる〝美肌の湯〞でもあります。塩化物泉と弱アルカリ性の相乗効果でまるで〝リンスインシャンプー〞のような効果が期待できます」
温泉宿に滞在するとついつい長湯してしまったり、熱さゆえにすぐ出てしまったりするものだが、北出氏に最も効果的な温のつかり方についてもアドバイスをもらった。
「まずは温泉に慣らすためにかけ湯をします。次に身体に負担の少ない〝ぬる湯〞にゆっくりつかります。続いて、少し外気でクールダウンするために露天風呂へ。おいしい空気や自然に癒されてください。そして、最後に源泉100%かけ流しのあつ湯へ。それぞれどれくらい湯に浸かったらよいかという目安は個人差がありますが、額に薄らと汗が滲んできたら湯から上がって、身体や髪を洗ったり、水を飲むなどして、何度も休息を入れることで、より温浴効果も高まります」
無理せずに適度なクールダウンとともに分割して湯浴みするのもポイントだという。そして、最後にもう一つ。
「温泉から上がる時には、シャワーで流さずにあつ湯のかけ湯をすることをお薦めします。こうすることでさらに入浴後の保湿・保温の効果も持続されやすくなります」
二本の源泉が敷地内にあるというこの施設のかけ流し湯を心ゆくまで味わって欲しい。
温泉家・北出恭子氏。「塩化物泉は肌の表面に成分が付着することで保湿・保温作用があり、冷え症や乾燥肌でお悩みの方にお薦めの泉質」と、この宿の湯の魅力を語ってくれた。
Profile
北出恭子/温泉家・利き湯師
国内外の温泉を年間300 湯以上めぐる温泉専門家。多数の温泉資格や知見を活かし、数多くのメディア出演や講演、インフルエンサーとして、温泉の魅力を世界に発信している。また、泉質の“利き湯” による分析・評価ができるスペシャリストとして、行政や温泉地自治体と連携し、温泉資源を活用したコンテンツの監修や泉質を活かした温泉地づくりのアドバイスを行う。大学講師や観光行政の委員も務めている。杏林大学地域総合研究所客員研究員。認定心理士。著書「九州絶品温泉、ドコ行こ?(ペガサス出版)」 。
(1)ご当地文化のエッセンスが投影された“ご当地部屋「紺碧の間」”。紺碧を基調とした色合いが外観の一枚画のような静謐な情景に共鳴する。(2)ディテールも美しい。客室の壁にかけられている仙台ガラスのアート。
(3)特別会席「新伊達会席」から。ご当地感あふれる先付“牛テールのディップ 仙台麩”。仙台麩に牛テールと仙台味噌のリエットを付けて味わう逸品。(4)“ 宝楽盛り”。大名の食事をイメージした脚付きの御膳で振る舞われる堂々たる逸品。東北ならではのお造りの上質ぶりに心奪われる。
名取川の渓流を望む「せせらきラウンジ」。毎晩、和楽器をはじめ多様な楽器の生演奏に耳を傾けながら、地元のワインやウィスキー、季節のドリンク、仙台藩の時代から続く“ 仙台駄菓子”など飲み物やお菓子を愉しめる大人の空間。
小鍋“ 牛の山海俵鍋”。牛肉に雲丹醤をまいて俵型に仕立てた贅沢な具材を味わう逸品鍋。俵型の牛肉をトリュフが浮かぶ出汁にくぐらせ、雲丹を添えて楽しむという最高の贅沢を堪能する。
海の幸も山の幸も贅沢に食する〝大名の会席〞
眼下に流れる澄みわたった名取川と深い山々の情景を俯瞰するように一枚画のようなピクチャーウィンドウが印象的な客室は、深い紺碧色のエレガントな色合いを基調とした安らぎの空間だ。秋保温泉の景勝地である磊々(らいらい)峡がかつて〝紺碧の深淵〞と表現されていたことから着想を得ている。外観に広がりゆく木々の情景とあいまって時間の移ろいとともにその景観をずっと眺めていたという思いに駆られる。
そして、伊達政宗ゆかりの地の贅を尽くした食もまたこの宿の真骨頂だ。〝大名の会席〞をイメージした重厚ある器や脚付きの御膳で供される品々の数々は、海の幸にも山の幸にも恵まれ、そのダイナミックで斬新ながらも滋味深い味わいを湛える一品一品に時間を惜しむことなくゆったりと舌鼓を打つ喜びもまたひとしおだ。
〝ご当地楽(ごとうちがく)〞の魅力再発見
夕から夜にかけて開催される「界」ならではのイベント〝ご当地楽「伊達な宴」〞。その土地の歴史や魅力を遊び心いっぱいに学ぶ体験型イベントだ。ここ『界 秋保』では伊達政宗が大切にしていた酒の席での心得を楽しく、そして格調高く学び、体感する。その設えと空間の贅と粋だけにも高揚感を感じずにはいられない。宴最後の一本締めは〝伊達の一本締め〞と言われ現代にも受け継がれているものだ。
地元仙台の人々もこぞって訪れ、自らが誇る街の文化紹介と湯を手放しに称えるという稀有な宿 ―――『界 秋保』の正統はでマルチな魅力を堪能してみてはいかがだろうか。
Information
界 秋保
宮城県仙台市太白区秋保町湯元平倉1
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiakiu
ダイナミックな山岳温泉の魅力に出合う
界 奥飛騨
風情にあふれる雪の中庭の情景。冬の期間中(~ 3 月23 日)は雪深い冬の夜に彩りを添えるオリジナルの和照明“飛騨玉”によるライトアップも楽しめる。
取材・文:朝岡久美子 撮影:中本浩平
飛騨染のオリジナルクッションも素敵だ
昨年9月、先に紹介した仙台の秋保温泉に続いて「界」ブランド最新の施設となる『界 奥飛騨』が開業した。2000~3000m級の活火山の名峰に抱かれた標高約1300 mの澄んだ空気の中で山岳温泉の醍醐味を思う存分満喫したい。
四季折々の絵画的情景を愛でる湯宿
北アルプスのお膝元、長野県の松本や塩尻からさらに山岳地帯を奥深く登った場所に位置する岐阜県の平湯温泉。この辺りは5つの温泉地から成る「奥飛騨温泉郷」と呼ばれる豊富な湯量と歴史を誇る。
中でも、宿が位置する平湯温泉は奥飛騨温泉郷の入り口に位置し、大正時代から歴史と伝統を紡ぐ風情に満ちた温泉街だ。「中部山岳国立公園」内に位置し、アガンダナ山や焼岳など2000〜3000メートル級の活火山の名峰を拝むダイナミックな山の情景に抱かれて自然の醍醐味を堪能できるのも大きな魅力だ。あたりは豊富な広葉樹林に恵まれ、山桜、新緑、紅葉、冬の雪景色と四季折々の絵画的情景を、凛として澄み渡った空気感とともに堪能できる。これぞまさに山岳温泉の魅力だ。
日本第三位の湧出量を誇る温泉地
意外に知られていないが、平湯温泉は別府、湯布院に続いて日本第三位の豊富な湧出量を誇る。泉質は先に紹介した東北地域の秋保温泉のものに限りなく近いナトリウムやカルシウムを豊富に含有する炭酸水素塩・塩化物泉。秋保の湯と同様に肌の汚れや油分を適度に落とし、塩の膜で肌を包み込む作用が保湿性に優れているとされている。しかし、秋保に比べて単純泉の要素も含み、鉄分も含む黄色に近い色味のなめらかな湯がこの温泉の湯の特徴だ。その湯に身をゆだねていると、心身ともに温められ、数回湯浴みを体験しただけで見た目にも、感触としても肌が艶やかに整うのを感じる。かといって湯疲れすることなく長湯をしても何回湯浴みをしてもまったく疲労感を感じないという癒しの効果も抜群だ。深々とした辺りの静けさもあいまって、たとえ一日の滞在であったとしても身も心も芯から癒されるのを感じることができるだろう。
ご当地の食彩を斬新なテイストで味わう
そして、秋保温泉同様に『界』ブランドの愉しみと言えば、やはりその土地の郷土色が美しく斬新に盛り込まれた豊かな食だ。PAVONE 読者にふさわしい〝特別会席〞の逸品の品々は、飛騨・高山の大地の恵みに育まれた山海の幸に彩られ、メインの焼き物〝飛騨牛のフィレ肉とサーロインの朴葉焼き〞の心躍るダイナミックで斬新な食彩に、はるばる山深い山岳地帯の温泉を訪れる喜びを感じることだろう。食のディテールにおいても奇をてらうことのない、しかし斬新なアイディアがふんだんに活かされており、次世代に温泉宿の醍醐味と魅力を紡がんとする心意気にも感心するばかりだ。
伝統の匠の技が誘う究極の安らぎ
奥飛騨・飛騨高山と言えば、ブナ・ナラなどを主体とした広葉樹林の木工技術の伝統にふれる喜びもまた一つの魅力だ。伝統の匠たちが受け継いできた「飛騨家具」と呼ばれる木工工芸の技術が宿の内観を彩り、あらゆるディテールに至るまで美しく繊細に彩っている。その白眉は何といっても曲木(まげき)と呼ばれる、強靭な木材をいとも簡単に美しい婉曲のフォルムに仕上げる技によるものだ。この伝統の匠の技は全客室ベッドルームの空間やベッドボードに巧みに投影されており、あたたかな木調が放つ得も言われぬぬくもりが優しく心地よく最上の眠りと安らぎへと誘ってくれる。
食・寝・空気感、そして美のフォルムと、五感をやさしく癒し、心の平安へと導いてくれる至極の宿。山岳温泉の真の魅力を、土地の魅力が紡ぎだす凛として美しい空気感とともにぜひ味わってみてはいかがだろうか。
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(1)先付けと宝楽盛り。囲炉裏端を思わせる料理の盛り付けも高揚感へと誘う。(2)甘味もユニークだ。マシュマロを高山名物みたらし団子のタレに浸けながら楽しむ。(3)メインの焼き物“ 飛騨牛の朴葉つと焼き” 。
(8)
(4)(5)(6)(7)実際に飛騨の匠の技である“ 曲木” を体験できるセッション(“ご当地楽”)が用意されているのも嬉しい。(8)大浴場の露天風呂は“ 雪の回廊”をイメージした幻想的な空気感を湛える。何時間でも浸りたい心地よさに包まれる。
Information
界 奥飛騨
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯138
ご予約・お問い合わせ:050-3134-8092
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiokuhida
山と海のダイナミックな景観に包まれた極上の温泉宿
ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
別府湾と市内を一望する最高のロケーションに位置することがわかる一枚。大浴場の露天風呂からの眺めは昼も夜もエキサイティングだ。
バーでは大分や別府にちなんだ色鮮やかな各種カクテルも堪能できる。
秋保、奥飛騨と本州の名湯に続き、最後にご紹介するのは、大分県の別府。2019 年に開業し、今なお話題に事欠かない『ANA インターコンチネンタル別府リゾート&スパ』をご紹介しよう。
別府湾の美しい情景と山の景観に恵まれた至極の宿
源泉数・湧出量ともに文字通り日本一を誇る温泉地、大分県の別府温泉。「別府八湯」と呼ばれる八カ所の温泉郷のあちらこちらから湯けむりがあがっている昔懐かしい情景が何とも慕情を誘う。そんな景観と別府湾を一望する由緒ある温泉郷「鉄輪(かんなわ)温泉」からさらに数百メートル上がった「明礬(みょうばん)温泉」近くの小高い丘の上に位置するのが『ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ』 だ。
世界各国に数ある同ホテルブランドの中でも天然温泉の大浴場を有するコンテンポラリー&ラグジュアリーというユニークなコンセプトを体現した唯一無二の宿。世界に冠たる温泉地を抱く小高い丘の上でのラグジュアリーな滞在は、まさに最高の贅沢といえるだろう。別府のシンボルであり山焼きでも有名な扇山と、ナポリ湾を彷彿とさせるみずみずしい景観を湛える別府湾の双方を一挙に眺めるダイナミックなパノラマに抱かれて始まる滞在は、この宿ならではの醍醐味だ。
館内は別府石やイタリアの溶岩石を積み上げたモノトーンな色調をベースにしたシックな造りが高級感をかもしだしている。溶岩のぬくもりに優しく包み込まれるかのように瞬く間に癒しの世界へと誘われる。空間に寛ぐだけでも非日常へと引き込まれるかのようだ。そして、客室へ―――。先に述べたように海と山の双方に挟まれた別府市街を一望するパノラマを美しく引き立たせる落ち着いた、しかし品格あるインテリアに心も身体も癒されるのを感じることだろう。
エキサイティングながら最高のクオリティを誇る食空間
世界に名を馳せるラグジュアリーブランドが満を持して供する食の愉しみもまたこの宿を訪れる一つの理由だ。メインダイニングの「アトリエ」は、大分の食材をふんだんに活かした〝おおいたフレンチ〞をコンセプトに掲げるライブ感あふれるエキサイティングな食空間。身体に良い素材と調理法が貫かれた洗練の皿の数々は、どれも驚くほどに繊細ながら、五感を思う存分堪能させてくれる逸品ばかりだ。
この宿を語るに欠かせないのは、「クラブインターコンチネンタル」の存在だ。朝食・アフタヌーンティー、イブニングカクテル、そしてナイトキャップと酒類・カクテルのラインナップもはじめ、ハイクオリティかつ多彩な内容で、この宿の心意気を感じるゴージャス感に、滞在の醍醐味もさらにエキサイティングに感じられることだろう。
春夏秋冬、どの季節も〝東洋のナポリ〞別府の魅力を最大限に堪能できる宿をぜひあなたの定宿に加えてみてはいかがだろうか。
Information
ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ
大分県別府市大字鉄輪 499-18
TEL 0977-66-1000(ホテル代表)
TEL 06-6210-4830(宿泊予約)
https://anaicbeppu.com