美景の宿 Scenery worth Seeing
旅の目的は人それぞれ。グルメや観光、温泉はもちろん、美景との出会いも、その一つだ。窓の外を望むことが旅の目的となる、美しい景色が自慢の宿、六選。
生きたアトリエ空間が呼び覚ます癒しのパワー
― 日本初アトリエ温泉旅館誕生―
星野リゾート 界 仙石原
今年7月下旬、箱根の仙石原に、また一つ星野リゾート「界」の新しい宿が開業した。箱根の雄大な自然とストーリーあふれるアートが共鳴する空間。そんなユニークな温泉宿で自らが導き出す癒しのパワーに目覚める。そう、あなたが心の中に描く情景こそが癒しの力を呼び覚ましてくれるのだ。
取材・文:朝岡久美子 写真:佐藤久
宿の中心的部分である共有空間を飾る象徴的なオブジェは、杉の原木と苔むした溶岩を用いて表現された箱根の原風景。本物の美術館のような壮麗な空間だ。
生きたアトリエ空間を体感する
星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」の15ヶ所目となる界 仙石原。15施設目ならではのノウハウとスタッフの情熱が凝縮された新しい宿は、足を踏み入れたその瞬間から不思議なマジックに絆されてしまう。壮麗な山々を頂く高地の清々しい空気も相まって、まるで空間からインスピレーションを与えられているかのような心持ちにさせてくれる。
名付けて― アトリエ温泉旅館―。箱根の仙石原といえば、老舗美術館の宝庫でもある。しかし、界 仙石原の目指すアート空間は、決して既存の鑑賞型空間の再現ではない。
アーティスト イン レジデンス―アーティストたちを一定期間ある土地に招聘し、滞在を通して制作の場を与える制度― 界 仙石原は、世界7か国から公募で募った情熱あふれるアーティストたちの作品制作の場としてこの風光明媚な場所に誕生した真新しい空間を提供した。集まったのは日本の文化を理解し、箱根という地に宿る自然の魅力とパワーをインスピレーションとして自らの作品に表現できる才能にあふれた画家たち。彼らは開業前の10日間を共に過ごし、仙石原の自然とその美を描き続けた。
12人によるそれぞれの作品が空間を彩る16の客室。この宿が目指すアトリエ空間的旅館とは、土地から受けたインスピレーションによって生みだされた12人のアーティストたちの作品一つひとつのストーリーを通して、訪れる人々にも自らの感性に向き合い、自然に対峙する自分自身の内なる心の情景を感じて欲しいという思いが込められているのだ。
嬉しいことに、その思いを即座に形にできるアトリエライブラリーも実際に完備されている。何百色の色鉛筆や布クレヨン、そしてスケッチブックのある光景にきっと心躍らされるに違いない。
自然とアートが織り成すインスピレーションが呼び覚ましてくれる癒しの力―。界 仙石原での滞在を通して、自分自身の奥底に秘められた眠れるパワーに気づき、身も心も満たされる至福のひとときを満喫してほしい。
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全客室に異なるアーティストの作品が数点飾られている。作品のコンセプトも色調も、それぞれ違うように、客室の間取りも一つひとつ異なる。自然を癒しのインスピレーションとして感じられるようシンプルな洗練が際立つ上質な空間だ。
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全室露店風呂付きなのは何よりも嬉しい。大涌谷温泉から引かれた湯をゆっくり堪能したい。
昔懐かしい日本の原風景に憩う
― 信州の田舎を贅沢に体感する温泉宿―
星野リゾート 界 アルプス
北アルプスの壮大な山々の麓に位置する愉悦の宿、星野リゾート 界 アルプス。その壮大な自然美はまさに「美景の宿」の名にふさわしいたたずまいを見せる。この宿で出合う古き良き信州の田舎の情景は、あなたの心に、懐かしさと優しさをよみがえらせくれるに違いない―。
四季の美と日本の原風景を堪能する
3000メートル級の山々が連なる北アルプスの麓に位置する長野県大町温泉郷。立山黒部アルペンルートへのアクセスや白馬スキー場エリアへも車で約15〜20分の距離にあり、北アルプスの観光拠点として一年を通して賑わう。
氷点下15度にも下がる冬は、まさにスキーシーズン。雪質も良く、多彩なコースが揃う白馬は、海外のスキーヤーからも注目の的だ。春― 長く寒い冬の間、氷に閉ざされていた木々や花々の生命が一斉に芽吹く春の訪れは、言葉に表せないほど美しいという。夏― 北アルプスがもたらす清涼な空気と標高800メートルの清々しさは、都会の茹だるような暑さからの束の間の逃避行を可能にしてくれる。そして、秋。落葉樹の紅葉の美しさは言うまでもなく、あちらこちらに稲穂が実る黄金の情景は、まさに昔懐かしい日本の原風景を描きだす。
大町は、かつて新潟の糸魚川から松本を結ぶ「塩の道」と呼ばれる街道沿いの宿場町として栄えた。昨年冬、改装を経て新たにオープンした星野リゾート 界 アルプスは、信州の豊かな四季の情景とともに、歴史ある宿場町の風情を湛える。
囲炉裏端で供されるおやきや焼きりんごの素朴な味わい。雁木づくり屋根の下、下駄を鳴らしてそぞろ歩く―。そんな他愛もない田舎の日常体験が、どれほど心を優しく癒してくれることだろうか。草木の醸しだす清々しい空気、アルプスが描き出す澄んだ空の色、囲炉裏が醸す温もりあふれる匂い…。その一つひとつが五感を優しく癒し、安らぎへと導いてくれるのだ。
信州の人々の暮らしの智慧がつまった伝統の食もまた、心を震わせてくれるに違いない。山間の県ならではの食材の力を見事に引き出した心のこもった一品一品が、本当の食の豊かさをじっくり味わわせくれる。よもぎ麩やクルミ、そして小さな漬物一つまでもが滋味深く、恵みに満ちている。
信州の田舎を贅沢に体感するひととき。この温もりあふれる時がもたらしてくれる喜びを、ぜひ実感してほしい。
大町はかつて日本海と内陸を結ぶ交易路「塩の道」の宿場町として栄えた。そんな宿場町の風情を何気なく感じさせるたたずまいが癒しを与えてくれる。
青森の大地の恵みに浸る愉悦の宿
星野リゾート 青森屋
郷土の魅力を五感で堪能する
青森県三沢市― 北西に雄大な八甲田連峰の山々を望む22万坪の敷地にたたずむ星野リゾート 青森屋。自然豊かな四季のうつろいを贅沢に堪能できる絶景露天風呂と、三方を海に囲まれた土地ならではの海の幸を堪能できる愉悦の宿だ。
最上階の特別室にさりげなく設えられた上質な郷土工芸品や、館内に飾られた極彩色のねぶたの持つ存在感と迫力に圧倒される。宵宮の雰囲気漂うお祭り騒ぎの広場が、館内の中央にあるのはご愛嬌。たまには童心に返って目いっぱい遊ぶのも悪くない。
庭園にたたずむ郷土の古民家で供される夕食の豪華さに目を奪われる。郷土の漁師町で受け継がれてきた海の恵みが一つひとつ心を込めて美しいかたちに仕上げられた先付“七子八珍”に始まる会席の贅沢な八品。海の幸にも山の幸にも恵まれた青森ならではの華やかな宴の膳だ。
白銀の情景にねぶたの鮮烈な色彩が躍る冬の情景も乙なもの。ねぶたの山車が浮かぶ絶景の雪見風呂など、ぜひいかがだろうか。
上層階に位置する特別室“うんかん”。神々しい八甲田連峰を望む最上級の客室。青森らしい凛とした空気感と絶景を楽しみたい。
ねぶたの起源と言われる“ねぶり流し”灯篭が浮かぶ絶景の雪見風呂(12月1日から3月末日までの期間限定)。
奥入瀬渓流の自然とともに過ごす至福の滞在
星野リゾート奥入瀬渓流ホテル
「ラウンジ 森の神話」。奥入瀬をこよなく愛した芸術家 岡本太郎のユニークでダイナミックな暖炉と絵のような自然の情景が優しく共鳴する居心地の良い空間だ。
国立公園内にたたずむ美景の宿へ
青森屋から十和田湖方面に車で約60分。星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルは、十和田八幡平国立公園内に位置し、渓流を間近に望む絶好のロケーションを誇る。館内に居ながらにして自然と一体感を味わえるのが、このホテルの醍醐味だ。
奥入瀬渓流の魅力は、比較的平易なコースながら大自然の懐に入り込めることだ。奥入瀬を良く知るネイチャーガイドたちがベストなプランでナビゲートしてくれるのでぜひ渓流歩きも楽しみたい。
冬の楽しみもまた格別だ。奥入瀬の冬の風物詩、氷瀑とライトアップが織り成す幻想的な光景は、ここを訪れずして出合うことのない貴重な体験だろう。もちろん、アウトドア派でなくとも、暖炉の温もりとともに奥入瀬の冬景色を眺めながら、ウイスキーやワインで静かな大人の時を過ごすのも悪くない。
氷瀑を模した冬の絶景露天風呂。
雄大な富士山の絶景を借景に
―自然に溶け込む森のリゾートが誕生―
ふふ 河口湖
熱海の高台に佇む静寂に包まれた大人の宿、「熱海 ふふ」の開業から11年。熱海に続く待望の「ふふ」ブランドが河口湖に誕生した。全客室から富士山を目の前に望む、絵に描いたような“美景の宿”。「熱海 ふふ」と違うことなく、思わず「ふふっ」と笑みのこぼれてしまう極上のサービスでゲストを迎え入れる。
全客室から望む富士山の雄姿に癒される
今年10月1日に開業したばかりのスモールラグジュアリーリゾート。春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪と、四季の魅力にあふれる河口湖の森のなかに誕生した。リピート率の高さを誇る名宿「熱海 ふふ」の系譜を受け継ぎ、上質で静寂に満ちた空間は、大人のための隠れ家として早くも注目されている。
ロケーションは河口湖の北側。これからの季節、圧倒的な美しさで人々を魅了する紅葉の名所、もみじ回廊の至近に佇む。〝境界のない森のリゾート〞を謳うだけあり、建物に足を踏み入れてもなお、至るところで豊かな自然を身近に感じることができる。
ふふ 河口湖と自然との濃密な関係を象徴するのが、真正面に構える雄大な富士山の存在だ。32ある客室のすべてがスイートルームというリゾートにあって、どの客室も河口湖越しの端正な姿の富士山を借景にするという贅沢さ。インテリアバルコニーに設けられた客室露天風呂で、その美しさを目の当たりにしながら温かな湯に浸れば、日頃のストレスから解放され、心身共に癒されること間違いない。
滞在の楽しみである食事は、河口湖でしか味わえない日本料理にこだわる。富士山の溶岩石の上で焼き上げる富士桜ポークや山梨牛をはじめ、地産地消を積極的に実践。朝食においても地元食材にこだわり、近隣の老舗の納豆や自家製豆腐を用いた「おかべ」をはじめ、地元で収穫された野菜をふんだんに使ったおばんざいなどが、富士五湖をイメージしたお皿に盛られて提供される。また、山梨県内の各ワイナリーより厳選されたワインも豊富に揃うので、ワインの名産地としての魅力も思う存分堪能できるのが嬉しい。
ラグジュアリーなトリートメントで知られるスパ・バイ・シスレーは、今回、世界に先駆けて初めて、客室でのトリートメントサービスを開始した。富士山を望む開放的な空間で、木々の香りを感じながら極上のスパトリートメントを享受できるのだ。このように、滞在中のあらゆるシーンにおいて、河口湖ならではの豊かな自然との繋がりを感じるふふ 河口湖での滞在。地域に根ざしたリゾートならではの醍醐味を余すところなく体感してはいかがだろうか。
客室は6タイプのスイートルームからなる。写真の「木の花コンフォートスイート」は、室内にも緑があふれ、外の自然との繋がりを感じられる。
各客室に設けられた暖炉が温かな雰囲気を演出。
奥湯河原の奥処に別邸を構える嗜み
― 日本邸宅の風情漂う4棟の離れ―
奥湯河原 結唯 離れ 紫葉
万葉集にも詠まれた名湯が、時を経てもなお、こんこんと湧き出る奥湯河原。箱根連山の麓、幽玄な景色が広がる温泉郷に、大人のための隠れ宿は佇む。静寂に包まれた離れでの至福の時間は、日頃のストレスから身も心も解き放してくれる。
撮影:大橋マサヒロ
別邸での寛ぎと旅館のもてなしを
東京の奥座敷、湯河原へは都心から車でわずか1時間半ほど。湯河原の温泉街を抜け、緩やかな山道を進んだ先に「奥湯河原 結唯 離れ 紫葉」は佇む。4棟のモダンな離れにはそれぞれに専用パーキングが備わり、車で直接乗り付ければ、他のゲストだけでなくスタッフとも極力顔を合わせることなく過ごすことができる。ゲストのプライバシーが最優先に考えられ、そこはまさに大人のための隠れ宿といった趣きだ。
4棟の客室は粋でモダンな造りの日本建築となり、それぞれが異なる造りになっている。その中の一つ「紫夕」は155㎡の広さを誇る特別客室。一面ガラス窓のリビングからは眩しい深緑が目の前に迫る。専用庭園のウッドデッキでは、足湯に浸かりながらお茶を飲んだり読書をしたりと、のんびりと過ごせる開放感がたまらない。展望風呂はすぐそこを流れる藤木川にせり出すように造られ、窓を開け放てば野趣あふれる極上の森林露天風呂へと様変わりする。清流の水音、澄んだ空気、そして源泉掛け流しの良質の湯に心身ともに癒されることだろう。
食事は奥湯河原の老舗旅館で長年腕をふるってきた一流料理人が手がける。山海の幸をふんだんに用いた料理は季節感にあふれ、彩り豊かで繊細な美しさ。「離れ 紫葉」から屋根付きの回廊で繋がる「本館・結唯」には専用の半個室が用意され、プライベート空間でゆったりと目にも美しい本格的な和会席を堪能できる。 木々が芽吹く春、新緑の初夏、蛍舞う夏、色づく紅葉の秋、冬の雪化粧……。季節の移ろいを愛でる「奥湯河原 結唯 離れ 紫葉」は、温泉宿のもてなしと別荘のプライベート感を併せ持つ特別な空間。日常を離れて至福のひと時を過ごし、湯河原の奥処に別邸を構えるという贅沢な気分を味わってみてはいかがだろうか。
寛ぎを最優先に考えられた和モダンな寝室。木々の葉を揺らす風や川のせせらぎに癒される。
寝室の外の縁側は、静寂に包まれた贅沢な空間。都会の喧騒をしばし忘れて穏やかなひと時を過ごしたい。