津軽の豊かな四季を存分に堪能できる水庭。春には枝垂れ桜、秋には色鮮やかな紅葉と四季の風情を感じさせてくれる。
約800年の歴史を誇る津軽の奥座敷、大鰐(おおわに)温泉。
かつて温泉番付では横綱の草津や有馬の湯を凌ぎ、別格の湯と讃えられた名湯だ。
歴史ある名湯に癒されながら、冷涼な大地にみなぎる郷土の人々の熱き心を知る――極上の大人旅――。
取材・文：朝岡久美子
写真：最上梨沙
ねぷたがいっぱい。
こぎん刺しの模様は古くから40種類以上あったという。そのモダンな意匠と豊かな創造性に驚かされる。寒く辛い生活の中にも楽しみや喜びを見出していた農民たちの姿を感じさせる。滞在中に気軽に体験できるのも嬉しい。
青森県中南部の街、弘前から車で約30分。大鰐温泉は、江戸時代に初代津軽藩主、津軽為信の眼病を治癒させたという言い伝えによって一躍その名が知られ、明治時代の鉄道開通とともに日本全国から人々が訪れるようになったという。
この由緒正しき温泉地に星野リゾート 界 津軽はある。津軽の奥座敷と言われるだけに四方を山で囲まれ、遅い東北の春を待ちわびるこの時期も、ひときわ凛とし澄んだ空気と冷涼感が漂う。
今年４月１日、界 津軽は文化の香り高いこの地方にオマージュを捧げるかのように、滞在を通して土地の生活文化や人々の智慧をあますところなく体感できる宿へとさらにその魅力を進化させた。
中でも、客室41室すべてが、間取りやタイプは違えど、“ご当地部屋”と呼ばれる界ならではの趣向を凝らした空間へと生まれ変わった。津軽地方の伝統手工芸「こぎん刺し」の刺繍モチーフの数々が、洗練の手法で客室空間に生かされ、私たちを非日常と深い寛ぎへと誘う。日本にモダニズム建築の潮流を生み出した坂倉建築研究所の手による重厚感あふれるしつらえの美は、PAVONE 読者層の優雅な旅人たちの心にしっとりと寄り添ってくれるに違いない。
かつて、真冬にも麻布しか着ることの許されなかった農民たちが、寒さを凌ぎ、生きるために懸命に一刺し一刺し糸を紡ぎ、目の詰まった刺繍模様で麻布を補強したことから生まれた「こぎん刺し」の美。農民たちの生への渇望が生み出した芸術は、悲壮感を感じさせるほど美しく、魅力的だ。そんなエピソードに心震わせながら、津軽の大自然の息吹を感じ、名湯の湯に浸かり、山海の幸とともに地の恵みを五感で堪能する。
夜、もう一つの“津軽の魂”津軽じょんがら節の勇壮な演奏に酔いしれる。津軽三味線の名手たちの心技一体の至芸に、再び感動冷めやらぬ。
北の大地が育んだ人々の誇りと郷土への熱き思い。冷涼な大地にみなぎる深淵なる情熱は、私たちに明日への活力と生きる喜びを与えてくれる。
毎晩メインロビーで開かれる津軽三味線の夕べ。全国チャンピオンの渋谷幸平氏の演奏は神がかり的だ。見る者聴く者を圧倒し、まさに“津軽の魂”を感じさせてくれる。
ご当地部屋「津軽こぎんの間」和室リビング付。広々とした重厚感あふれる空間にこぎん模様が映える。
春には枝垂れ桜の美しい露天風呂付の離れ（一棟のみ）は、幻想的なこぎん刺しの美があふれる。
春の特別会席“花見蟹と和牛の会席”。年間を通して大間の鮪を贅沢に味わう豪快な宝楽盛りや、三方を海に囲まれた豊かな地の素材を存分に味わう。秋冬の会席は、まさに“大間の鮪尽くし”。
Information
樹齢2000年の古代檜風呂の湯船で堪能する季節の湯。とろみのある弱アルカリ性のナトリウム塩化物・硫酸塩泉は、美肌の湯だ。
星野リゾート 界 津軽
青森県南津軽郡大鰐町大鰐字上牡丹森36-1
TEL.0570-073-011 界予約センター（9:00～ 20:00）
https://kai-ryokan.jp/tsugaru/
ゆったりとした時間の流れの中で感じる古き良き伊豆の営み。世代を超えて家族が水入らずの時を過ごす喜び――。
それはデジタル化された社会に生きる私たちにとって、かけがえのない癒しのかたちなのかもしれない
江戸時代から伊豆稲取に伝わる「つるし飾り（つるし雛）」。かつて庶民が豪奢なお雛様の代わりに、我が子の健やかな成長を願って一つひとつ心を込めて作りあげた。
一年中花に恵まれた伊豆の花暦を和紙で表現したアート作品。宿の思いともてなしの心が込められている。
出迎えてくれたのは花和紙と呼ばれる壁いっぱいの花暦。春夏秋冬の色に染まった和紙が四季の草花を愛らしく描き出す。一枚のアート作品が、和やかな心へと誘ってくれる。花暦の結界――。なんて美しいのだろうか。
昨年12月21日、星野リゾート 界 伊東は、新たなる時代を予感させる日本の温泉宿へと進化を遂げるべく、細やかに化粧直しを施してリニューアルオープンを果たした。星野リゾート『界』という名の下に、日本の温泉宿を盛り上げてきたスタッフ一人ひとりの知恵とノウハウが結集した夢の温泉宿。晴れのデビューだ。
三世代の日本旅館滞在を提案する星野リゾート 界 伊東には、世代を超えた家族の絆を深めてくれるモノやことがいっぱいあふれている。
かつて日本の誰もがこの地に憧れた時代を懐かしむおじいちゃんおばあちゃん世代も、何より癒されたいお父さんお母さん世代も、そして、見るもの、出合うものすべてに好奇心を覚える子供世代も、心を一つにして楽しめる愉悦の宿。それぞれの思いを一つに結ぶ癒しの空間は、温泉宿の達人たちからの粋な贈り物だ。
平土間タイプのユニークな間取りの客室。どのタイプも広々としており、ゆったりと寛げる。客室の内風呂も温泉という伊東ならではの贅沢さ。
陽光輝くロビー。白木づくりの軽やかで洗練されたしつらえが、新しい時代の日本宿の息吹を感じさせる。伊豆ならではの鮮やかな陽の光に穏やかに調和している。
館内のあちらこちらに設えられた四季の草花の切り絵の繊細さ、かつて庶民たちが豪奢なお雛様の代わりに我が子の成長を願い、心を込めて作りあげた「つるし飾り」の愛らしさ、そして古来人々が大切に育んできた山海の幸の命の輝き、椿油づくりや花びら染めに学ぶ自然の力強さ…、そんな古き良き伊豆半島の営みを物語る小さきモノたちの優しい面影が、普段はなかなか心を開き合えない家族の中に少しずつ共感を呼び覚ましてくれる。それは次第に言葉となり、喜びへと変わってゆく――。ちょっとレトロで、ゆったりとした時間が流れる伊東だからこそ、そのすべての恵みが心に染みる。
家族三世代の夢を包み込んでくれるあたたかい宿の寛ぎ――。その夢は日本の豊かな未来を描きだすのかもしれない。
名付けて「ご当地楽」。伊東ならではの「椿油づくり体験」や「椿の花びら染め」は、自然の恵みと力強さを身近に感じられるまたとない体験だ。伊豆の人々の生活に無くてはならない椿の魅力を五感で体感したい。
シルク地の白を椿の花びらを煮詰めた染液で、あなただけのオリジナルなスカーフに挑戦。
界 伊東ならではの「特別会席」の贅沢さに目を見張る。“宝楽盛り”で伊勢海老や金目鯛のお造りに舌鼓を打ち、とどめの“金目鯛の椿蒸し”に圧倒される。最後に椿油をさっとかけて仕上げた中華風の姿蒸しの絶妙な味わいがたまらない。これに鮑の陶板焼きと和牛の三味焼きが供されるという華やかさだ。
“淡雪チーズ椿見立て”。絶品だ。
Information
星野リゾート 界 伊東
静岡県伊東市岡広町2-21
TEL.0570-073-011 界予約センター（9:00～20:00）
https://kai-ryokan.jp/ito/
津軽の伝統工芸「こぎん刺し」。古くから津軽の農民たちによって伝えられた手工芸は、地元の若手が紡ぐそのユニークで斬新な意匠とともに、今、各地で高い評価を受けている。
一つひとつ心を込めて糸目を刺す楽しみ。母娘水入らずの時を伝統工芸ととともに過ごすひと時。春らしい桜染めの糸を使って、アルバム作りを楽しんだり、館内で撮影した記念写真をアルバムに入れて――。母娘旅の思い出にぜひいかがだろうか。
厚みがあり光沢のある葉を持つことから「艶つや葉ばき木」と呼ばれた椿の花。伊東市では防風林としても活用され、人々の生活にはなくてはならない花だ。
界 伊東が提案する「椿美人滞在」は、髪の先から爪先まで艶やかな女性を目指すプラン。
伊東温泉ならではの美肌の湯にゆっくりと浸かり、世界三大オイルの一つとされる椿油の絞り体験や椿の花びら染めで作った薄紅色のシルクのスカーフを互いに贈り合い、親子椿美人誕生。スカーフに添えるメッセージカードには、娘から母へ感謝の気持ちをしたためてみてはいかがだろうか。
箱根の奥座敷、仙石原は世界的にも有名な老舗美術館の多い地域としても知られる。仙石原の歴史と自然からインスピレーションを受けて誕生した「アトリエ温泉旅館」界 仙石原。館内に豊富に取り揃えた画材を使って、母娘二人でキャンバスに一つの作品を完成させる。手のひらを使って表現する二人だけの思いのかたち――。完成した作品は娘から母への素敵な贈り物。
長野桔梗ヶ原ワインを常時50数種類所有する界 松本。地のワインと滋味豊かな会席料理の繊細なマリアージュを楽しみ、ディナー後のロビーコンサートでは、ワインと共に音楽を楽しむ贅沢なひとときを。ワインを片手に母娘でゆったりと語らう素敵な時を――。音楽とワインの街、松本ならではのアートで贅沢な母娘旅を堪能する。
森にせり出すように配置された自然に抱かれた客室露天風呂。カモミールやレモングラスなどのハーブとバラやガーベラなど春の花々を浮かべ、母娘でゆっくりと大自然に抱かれた湯浴みの時を楽しむ。
明くる朝は広大な草原で朝日を眺める「朝焼け乗馬」がお薦めだ。朝露に濡れる美しい新緑、澄んだ空気、そして馬上から見る朝日と染まる空と眼前に広がる阿蘇五岳の美しさは、きっと忘れられない思い出になるに違いない。
～阿蘇ハーブ花風呂～
〜朝焼け乗馬〜
一の重にプリザーブドフラワー、二の重に和菓子を詰め合わせた特別な“感謝箱”。赤やピンクをメインに華やかに仕立て、奥ゆかしさを感じさせる和の伝統美と着物柄をイメージしたプリザードフラワーは、母娘旅の高揚感を高めてくれる。ピンクや桜の形に彩られた春らしい6種の和菓子とともに、客室でゆったりと母娘語らいの時を。
星野リゾートが全国に展開する日本初の温泉旅館ブランド。日本らしさと快適性を追求した空間や「界」ならではのユニークなサービスを提供する。
ご当地の魅力を表現する「ご当地楽（ごとうちがく）」のおもてなしと、地域の文化を体感する「ご当地部屋（ごとうちべや）」を通して、国内外のあらゆる世代に本物の旅の魅力を再発見してもらうことを使命として掲げる。2018年7月に15施設目となる「界 仙石原」が箱根町仙石原に誕生。
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