のどかな島根県益田市にスターシェフがやってきた!
La Semaine du Goût au Japon 2019
「味覚の一週間® in 島根県益田市」開催

ジョエル・ロブション総料理長が味覚の講師として小学校の教壇に登壇

フランスで始まった味覚の教育活動「味覚の一週間」。著名料理人たちがボランティアで小学校を訪ね、食と味覚をテーマに子供たちと交流するプログラムだ。開催9年目を迎えた日本では、昨年、シャトーレストラン ジョエル・ロブションのミカエル・ミカエリディス総料理長がラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションの関谷健一朗料理長と共に島根県の益田市を訪ね、地元の小学生たちと食を通じた交流を楽しんだ。

写真/大橋マサヒロ

 

ボランティアに支えられる、一週間にわたる食育活動

「味覚の一週間」とは1990年 にフランスの料理評論家であるジャン=リュック・プティルノー氏を中心に始まった味覚の教育活動のこと。様々な体験を通じて、五感を使って食事を味わうことの大切さや楽しさを広めることを目的としている。日本では2011年より実施されている。柱となる活動は「味覚の授業」と呼ばれ、料理人やパティシエが日本各地の小学校を訪ね、講師となって子供たちに味の基本を教えるというもの。この講師には発起人の一人でオテル・ドゥ・ミクニのオーナー シェフを務める三國清三氏やつきじ田村の田村隆氏、帝国ホテル総料理長の田中健一郎氏など、様々なジャンルの大御所と呼ばれる超一流の料理人たちも積極的に参加。次世代へ向けた食育の大切さの普及に共感する料理人をはじめ、多くのボランティアたちによって支えられている活動となっている。

日本で9回目の開催となった昨年、2019年度の「味覚の一週間」は、テーマに「発信する日本の味-未来の家族のために-」を掲げ、10月中旬から1週間かけて実施。「味覚の授業」では、岩手県から沖縄県まで約30の都道府県において、262校591クラス(62校の調理実習実施校を含む)で延べ1万6227名の児童が参加し、講師となった料理人やパティシエ、生産者は320名という規模での開催となった。

さらに今回はシャトーレストラン ジョエル・ロブションのミカエル・ミカエリディス総料理長と、2018年度「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール インターナショナル」で優勝したラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションの関谷健一朗料理長も講師として初参戦。島根県の益田市内にある2つの小学校と養護学校に足を運び、地元の子供たちとの交流を通じて、味の基本をはじめとした食べることの楽しさや大切さを伝える授業を行った。

講師として教壇に立つミカエル・ミカエリディス氏

 

教壇に立つ有名シェフを前に目を輝かせる子供たち

田市立吉田小学校の6年生のクラスで「味覚の授業」の講師を担当したのは、世界的に活躍するフランス料理のトップシェフ、ミカエル・ミカ エリディス氏だ。シェフコートを纏ったフランス人シェフが教壇に立つと、それまで騒がしかった教室が静まり返り、生徒たちの表情も緊張の面持ちに。しかしシェフが自己紹介を兼ねて14歳からフランス料理の修業を始めたことを語り始めると、自分たちとあまり変わらない年齢で料理の道へ進んだことに驚きの声が響き、次第に目を輝かせながらシェフの言葉に引き込まれていった。ミカエリディス氏は冒頭、「しょっぱい 」「すっぱい」「苦い」「甘い」「旨み」という5つの味を組み合わせると、どんな味も表現できると説明し、実際にこの味覚の基本となる五味を生徒たちに味わってもらうことにした。

まず生徒一人ひとりに配られたのは隣町浜田産の天然塩。これが何であるか告げられていない生徒たちは、恐る恐る匂いを嗅ぎ、舌の上にのせてみる。すると教室のあちらこちらから「しょっぱい!」「塩だ!」という声。さらにどんな味がしたかミカエリディス氏が問いかけると、もう一度舌にのせて口の中に広がる味に集中し、「いつも食べている塩と何か違う」「家にある塩よりもしょっぱく感じる」と、自分の言葉で感じた味を表現さ せた。「塩がないと料理は美味しくなりません。だからフランス人は塩の味一つにもとて もこだわるんですよ」とミカエリディス氏が語ると、生徒たちが納得した表情で頷いていた。五味の体験の最後は旨みだ。用意された透明の液体は見ただけでは何だか分からない。「これはトマトの水分だけを集めたものですが、見ただけでトマトだと分かった子はいないと思います。でも、よく見て、匂いを嗅いで、舌の奥でよく味わってみたらどうだったでしょうか? これは料理でも同じ。毎日食べる食事でもどんな味なのかよく味わうことが大切なのですよ」と生徒たちにメッセージを送った。

授業を終えてミカエリディス氏は、「良い食材を選ぶ目を持つこと、それを若い世代に伝えていくことが大切だと、師匠であったロブションさんに言われ続けてきました。だから今回、地元の素晴らしい生産物を用いなが ら、子供たちに味覚を意識して食べることの大切さを伝えられてとても良かった」と、本人も手応えを感じる授業ができたと語った。最後は生徒たちによる「メルシー」という元気な挨拶で、楽しくてためになる授業が締めくくられた。

右/益田市立吉田小学校で味覚のレクチャーをするミカエリディス氏。生徒たちは熱心に耳を傾けていた。通訳としてシャトーレストラン ジョエル・ロブションの シェフ松尾洋平氏がサポートした。
左上/じっくりと匂いを嗅いでみる生徒。
左下/ミカエリディス氏は生徒の質問にも気さくに応じていた。

右上2枚/小学校2年生も頑張って味覚について学んだ。子供たちにとっては学校では学べない貴重な経験となった。
右下/授業が終わったら、みんなで記念写真を。
左/ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションの関谷健一朗料理長は益田市立鎌手小学校の2年生を相手に講師として登壇。分かりやすく五味を説明し、味わうだけではなく、食材に触れたり、匂いを嗅いだりと、体で感じる五感が大切だと訴えた。「教える立場でしたが、いろいろな意見が出て、教わっている感じもしました」と関谷シェフ。

 

 

地元の魅力ある食材を世界へ向けて発信「味覚のアトリエ」開催

二人のスターシェフが益田市と近郊の貴重な食材を用いたレシピを考案し、調理のデモンストレーションを実施。益田市を中心に島根県内から集まった料理人や主婦が、その出来栄えと妙技に酔いしれた。

右上/一挙手一投足を熱心に見守るプロの参加者たち。
右下/地元の食材を丁寧に選びながら仕込みをするミカエリディス氏。
中/ 一般向けに「ホンモロコのパピヨット」のデモンストレーションを行った関谷 シェフ(右)と原シェフ(左)。
左/匹見産ワサビの香りがアクセントになった「島根県産黒毛和牛のアルルカン風」。

 

地元の食材の魅力を再発見

この日、益田市中心部にあるマスコ スホテル益田温泉のバーアンドダイニングは稀にみる熱気に包まれていた。東京から二人のスターシェフが訪れ、地元の食材を駆使した料理のデモンストレーションが行われたからだ。プロの料理人を相手にデモンストレーションを行ったのはミカエリディス氏。一方、地元の主婦を中心とし た一般向けは、関谷氏が担当。さらに松江から駆けつけてくれたル レストランハラ オ ナチュレールの原博和シェフがサポート役を買って出てくれた。2人のシェフがレシピを考案した「島根県産黒毛和牛のアルルカン風」 も「ホンモロコのパピヨット」も、共に匹見産のワサビや美都産の柚子など、益田市やその周辺の自然の中で育まれた食材をふんだんに使用。さらにこの日のために石見地方の石州瓦による器も用意され、世界的なシェフによるアイデアやテクニックと、地元の名産との完璧なるコラボレーションが実現した。参加者はシェフによる食材の活かし方や調理の技術、盛り付けのアイデアまでメモを片手に熱心に聞き入り、同時に益田市やその近郊の食材の豊かさを改めて再発見できる有意義な会となったようだ。

右から/幻のワサビとも呼ばれている匹見の沢ワサビ。ミカエリディス氏は匹見にまで足を運び、匹見川の源流域に広がる渓流式のワサビ田を見学した。
益田市の南東部、美都地区は県内1の生産量を誇る柚子の産地として知られる。
益田市にある松永牧場で飼育された黒毛和牛。

 

Information

「味覚の一週間」実行委員会

TEL 03-3402-5616(株式会社ヴィジョン・エイ)

https://www.legout.jp