Franciacorta イタリアが 誇る奇跡の美泡

ミラノから東へおよそ70km。
ロンバルディア州にあるイゼオ湖の南、緩やかな傾斜地一帯をフランチャコルタD.O.C.Gエリアと呼ぶ。
東西をラエティア・アルプスの丘陵地とオリオ川に挟まれた地域ではイタリアを代表する高品質なスパークリングワイン、「フランチャコルタ」が造られている。

写真・文:大橋マサヒロ
協力:フランチャコルタ協会日本事務局 http:/www.franciacorta.net/ja/

 

フランチャコルタとは

留め金で封印されたコルクを解放し、専用のグラスに注ぎ込む。きめ細やかな泡が昇華していくその様は華やかさと儚さを併せ持ち、芸術作品のように人々を魅了する。この黄金色に輝く優雅で繊細な「フランチャコルタ」は、北イタリア・ロンバルディア州東部、フランチャコルタ地域で生産されるスパークリングワインのこと。イタリアを代表するスパークリングワインの称号となっている。
 
フランチャコルタ地域では16世紀頃からすでにワイン生産が行われていたが、1961年にフランコ・ジリアーニの「シャンパーニュのような製法で高品質のワインを造る」という発案が転機となり、フランチャコルタワイン=瓶内二次発酵の高品質スパークリングワインという礎が築き上げられた。
 
瓶内二次発酵で造られる代表的なものは、フランスのシャンパーニュのほかにスペインのカヴァなどがあるが、例えばフランス北部に位置するシャンパーニュ地方と比べてフランチャコルタ地域は気候が温暖なため、葡萄の糖度が高く、フルーティーで酸が控えめな仕上がりになるという。
イタリアでは「フランチャコルタの奇跡」と呼ばれるが、そのゆえんはフランスのシャンパーニュより厳しい規定のもとで醸造されるワインであり、最高格付けの統制保証原産地呼称(D・O・C・G)に認定されていることにある。しかも、スパークリングワインとしてはイタリアで初めてのこと。さらに1961年の誕生からわずか34年で最高の格付けに位置付けられたことも奇跡と呼ぶにふさわしい発展だったようだ。
 
その奇跡を起こすことになった要因の一つは、ミラノからの程よい距離にあった。ワインジャーナリストの宮嶋勲氏によると「トスカーナやシチリアでも質の良いワインが造られるが、フランチャコルタがイタリア人に愛され、世界有数のスパークリングワインの産地にまで登り詰めたのは、ミラノから車で1時間弱という距離が生産者と消費者であるミラノの富裕層との関係を強固な絆で繋いだのでは」と推測する。
 
葡萄造りには欠かせない土壌も大いに関係している。フランチャコルタ地域は氷堆積土壌という氷河期に氷河が周囲の山の石や土を削り、押し流していってできた盆地であり、同じ層に小石や砂が混じり合い、ミネラルなどの養分を含みながら水はけも良いという単一土壌にはない特異な土壌が葡萄造りにはこれ以上ない恩恵となったのである。
 
フランチャコルタは今年、統制保証原産地呼称の認定を受けて50年という節目の年を迎え、将来のあるべき姿を示すために、この先10年の展望について発表した。そこでは今後、フランチャコルタはイタリア国内におけるスパークリングワインの代表の地位につくと予測されている。フランチャコルタの奇跡のストーリーは、止まることなくいつまでも続くのである。

 

Bellavista ベラヴィスタ社
完璧な調和を極めたフランチャコルタの盟主

 
タリア人のセンスにかかるとワイナリーがアート空間に仕上がる。丸い井戸のような天窓が地下に太陽光を注ぐ役割を果たす。

 

フランチャコルタの雄

フランチャコルタ地域内の10の村に点在する広大な自社畑を区分けして管理する。その面積は200 に及び、フランチャコルタ全体の葡萄畑の7%を占めるという。
 
「自然に耳を傾けると、何が最良か気付くことができる」と代表のフランチェスカ・モレッティ氏は言い、それぞれの畑で最良の葡萄品種を完熟させている。収穫は全て手摘みにこだわり、ゆっくりと時間をかけて雑味のないクリアな果汁だけを絞りだす。その後、最低で48ヶ月の長期熟成期間を経たワインはエレガントで余韻の深い最上のスパークリングワインへと仕上がる。
 
ベラヴィスタ社は2004年にミラノのスカラ座が改修を終えて再開するのを機に、オフィシャルサプライヤーに選ばれた。ワインと音楽は世界共通の「言葉」。リズムやハーモニーを共有し、神聖な文化へと昇華させるための手助けを、オリジナルヴィンテージワイン「ラ・スカラ」は目指しているという。ベラヴィスタ社の創業者ヴィットリオ・モレッティの造り上げた至高のワインが、「A PERFECT ITALIAN HARMONY」と称される所以なのだろう。

 
独自のスタイルと個性を研ぎすましたベラヴィスタ社の象徴というべき、美しく洗練されたエントランス。

職人の手作業によって全てのボトルを毎日1/8回転させて、澱を瓶の首のところに集めて除去(デゴルジュマン)する。

極上のフランチャコルタを封印するお洒落なデザインのオリジナルボトル。

 

information

Bellavista
Via Bellavista 5, 25030 Erbusco(BS), Italy
TEL +39-30-77-62-000
http://www.bellavistawine.it

 

Monte Rossa モンテ・ロッサ社
丘の上に佇む歴史ある名門ワイナリー

極力何も手を加えないことがこだわりのワイン。瓶内で熟成されているにもかかわらず、魔法をかけられたかのようにフレッシュさが失われず豊かでまろやか。

 

喜びのシーンを演出するワイン

1972年の操業でフランチャコルタ地域では老舗のワイナリーの一つ。創業者はフランチャコルタワイン協会の初代会長を務めた名門ワイナリーである。二代目のエマヌエーレ氏は、さらなる高品質のフランチャコルタワイン造りに専念するために、それまで並行して造っていたスティルワインの生産を止め、毎年、安定した品質のスパークリングワインのみを造ることに舵をきった。
 
フランチャコルタの中心地、ボルナートに約70haの自社畑を所有し、土壌や気候の違いを見分けて最適な葡萄品種を栽培する。古木から葡萄を育てることにこだわり、房は極力間引きをしないことで、特性を最大限に引き出した自然な葡萄を成育している。醸造の際、ファーストプレスの58%の果汁だけを使うこだわりもみせる。年間50万本を生産する内の40万本がノンヴィンテージなのは、毎年安定した同じテイストのスパークリングワインを提供するためである。
 
数々のこだわりとそれを支える努力が実を結び、モンテ・ロッサ社のスパークリングワインは2004年、権威のあるイタリアのワインガイドブックで年間最優秀スプマンテ(イタリアの発泡酒)を受賞した。また、ファーストヴィンテージワインを、かのフランク・シナトラがあるパーティで飲んで絶賛したという逸話も残っている。
 
「モンテ・ロッサ社のワインは幸福と喜びの瞬間を演出するんだ」とエマヌエーレ氏が話すように、モンテ・ロッサ社のスパークリングワインには人々をさらなる幸福へ導く魅力が詰まっている。過去から現在、さらに未来へと常にフランチャコルタワイン業界へ話題を提供し続け、さらな る高みへの労を惜しまない老舗ワイナリーから目が離せない。

 
左から/数々の受賞歴のあるモンテ・ロッサ社の自信作「カボション」の名は、宝石のカット方法の呼び名からとられ、できの良い葡萄が収穫できた年にだけ造られる。名実共に「フランチャコルタの至宝」の称号に相応しい。 「ロッサ家の丘」という名が由来のモンテ・ロッサ。爽やかな風が吹き抜ける丘に広がる葡萄畑が印象的。

重厚な門構えの奥には糸杉の小径が続き、丘の上には歴史を感じさせるオーナー家族の邸宅が控える。

18世紀にこの建物に居候させてもらったオランダ人画家が感謝の意を込めて描いた壁画が残る部屋。テイスティングルームとして利用されている。

左から/ヴィンテージのワインが眠るセラーにはフランチャコルタの歴史が凝縮されているようだ。 二代目オーナー・エマヌエーレ氏の気さくな人柄と、もてなしの精神があるからこそ、高品質のワインを届け続けることができるのだろう。

 

information

Monte Rossa
Via Monte Rossa 1rosso, 25040 Bornato di Cazzago
San Martino(BS), Italy
TEL +39-30-72-5066
http://www.monterossa.com

 

Ferghettina フェルゲッティーナ社
匠の技が創造する宝石のようなワイン

まるでモダンアートギャラリーのようなセラーには厳選されたワインが眠る。

 

ボトルに込めた職人の矜持

ベラヴィスタ社で18年間、葡萄栽培や醸造の責任者を務めたロベルト・ガッティ氏が、わずか5haの畑でスタートした家族経営の小さなワイナリー。このフェルゲッティーナ社では現在、頑固で無口な職人気質のロベルト氏と共に、後継者として愛娘のラウラ氏が現場を取り仕切っている。「エレガンスとフィネス」という伝説的な醸造家である父親の哲学を受け継ぎ、情熱を持って真摯にワイン造りに向き合う姿が印象的だ。
 
フェルゲッティーナ社のスパークリングワインは繊細で上品な味わいが特徴だ。10年以下の木からは葡萄の収穫を行わず、収穫した中からできの良い葡萄50%だけを自社で使用する。良い葡萄だけを使用するので、ヴィンテージの良し悪しに左右されることなく、毎年安定した質の高いワインを造り続けることができるのだそう。
 
三角錐の形をしたボトルはエレガントでとてもお洒落。そのボトルの形状はただデザイン上、美しいからではなく、ボトル詰めしてから澱を含んだワインを効率よく熟成させるのに適しているからだそう。職人気質のロベルト氏の哲学が詰まっているのだ。
 
家族経営の小さなワイナリーにもかかわらず、フェルゲッティーナ社ワインの素晴らしさは口コミで広く知れ渡り、今ではイタリア全土の星付きレストランで愛されている。

 
左から/崇高な透明感ときめの細かい泡が特徴の「ミッレディ」。1000日間以上の熟成期間を経て提供される。「ロゼ」はピノ・ネロ100%で、口に含むと酸味とエレガントさが漂う。バランスが素晴らしい。 ラウラさんと父である創業者ロベルト氏が共に品質を守りつつ、理想のワイン造りに日々精進する。

 

information

Ferghettina
Via Saline n°, 11-25030 Adro(BS), Italy
TEL +39-30-74-51-212
http://www.ferghettina.it

 

Ronco Calino ロンコ・カリーノ社
こだわりのワインを家族経営で

環境に配慮したワイン造り

リストの再来と称賛された20世紀を代表する名ピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリが生前過ごした邸宅が葡萄畑の丘の上に建つ。その傾斜地に広がる深紫色の葡萄と緑の葉のコントラストが実に見事な景観を織りなしている。
 
小規模経営が多いフランチャコルタで最も小さなワイナリーの一つだ。このロンコ・カリーノ社が目指すのは、環境に配慮しながら質の良いワイン造りを家族経営で持続させていくこと。数を求めず質を極めていく姿勢は、フランチャコルタ地域全体のワイン生産の姿勢をそのまま体現しているといえる。
 
ワイン造りに使用する葡萄は全て自社栽培にこだわり、畑を小区画毎に土壌や斜面の向きなどによって選別し管理する。でき上がった葡萄は葡萄自体の重さで絞り出されるフリーランジュースにより近い少しの圧搾による葡萄を使用するそうだ。小規模ワイナリーだからこそできる、きめ細やかなこだわりによって繊細でエレガントなスパークリングワインに仕上げている。

 
左/自社畑で栽培する葡萄だけを最小限の圧搾で絞るなど、そのこだわりは家族経営だからこそ実現する。 右上/名ピアニストが愛してやまなかった邸宅には現在オーナーが住んでいる。今にも風に乗って美しい調べが聞こえてきそう。 右下/ピノ・ ネロが多いのが特徴で、日本へは2016年からほんの少しだけ輸出が始まっている。

 

information

FRonco Calino
Via Fenice 45, Frazione Torbiato 25030 Adro (BS) , Italy
TEL +39-30-74-51-073
http://www.roncocalino.it

 

Barone Pizzini バローネ・ピッツィーニ社
オーガニックにこだわる老舗 ワイナリー

フランチャコルタの自然を味わう

ワイン造りとしえてゃ比較的歴史が浅いワイナリーが多いフランコチェスタ地域において、バローネ・ピッツィーニ社は最も歴史のあるワイナリーの一つに数えられる。その歴史は1870年に始まり、1998年からは有機栽培の葡萄造りを始めた。現在でも有機栽培の認証を受けているフランチャコルタのワイナリーは3軒しかなく、その中で最も古くから取り組んでいるという。
 
2007年には環境に配慮した新たな醸造所を建てた。そこでは、建物自体の建材に石や木を多用し、ワインの貯蔵庫を地下12mの地中に置くことで自然に温度を下げることを可能にし、極力電力を使わないでワイン造りができる環境を整えている。
 
フランチャコルタの豊かな自然をそのまま生かしながら、植物や虫、微生物などの相互作用の食物連鎖を断ち切ることなく育った葡萄で醸造されるワインは、飲みやすくいつまでも続く余韻がたまらない。

 
左から/シャルドネとピノ・ノアールで作られる「パニャドーレ」は60ヶ月長期熟成で濃厚な蜜の香りが特徴。 なるべく生態系に負荷をかけないようにワイン造る。地中深くに作られたワインセラーはひんやりとした冷気と静寂に守られ、心癒される聖堂のようでもある。

 

information

Barone Pizzini
Via San Carlo 14, 25050 Provaglio d’Iseo(Bs), Italy
TEL +39-30-98-48-311
http://www.baronepizzini.it

 

HOTEL in Franciacorta
L ́Albereta Relais & Chateaux ラルベレータ ルレ・エ・シャトー

 

葡萄畑に囲まれた至福の高原リゾート

ラルベレータ ルレ・エ・シャトーは、ベラヴィスタ社のオーナーであるモレッティ家が、フランチャコルタの豊かな自然を未来の子供たちに残すために開業したホテル。蔦が絡まる低層階の建物は貴族の屋敷を想起させ、時がゆっくりと流れるような独特の雰囲気を醸し出している。テラスからの眺めも素晴らしく、深い森と葡萄畑がどこまでも広がる。その先にはイゼオ湖の湖面が神秘 的に輝いている。
 
ラルベレータ ルレ・エ・シャトーでの楽しみは多々あるが、まず押えておきたいのがスパでの極上体験だ。ゆったりとした2000m²に及ぶスパ「エスペース・シェノー」では、40年のキャリアを誇るアンリ・シェノー氏が、最先端西洋医療と中国医療を融合させ、ゲストそれぞれの要望に応じ てデトックスやエナジーチャンネル、アンチエイジングなど様々なプログラムを提供する。ラウンジやスイミングプール、ヨガスタジオなどでリフレッシュし、さらには専用のレストランでオリジナルメニューの食事を摂りながら、心身ともにデトックスを体感したい。

 
左上/手入れが行き届いた緑豊かな庭園。現代アーティストたちの彫刻作品が配されており、散策するだけで癒される。 左下/スパ「エスペース・シェノー」ではゆっ たりとした開放的な空間で至福のひと時を過ごせる。 右/天蓋付きのベッドや落ち着いたインテリアが優雅で快適な滞在を約束してくれる。

 
美食体験も外せない。2014年にオープンしたレストラン「レオーネ・フェリーチェ」は美食家の間で話題のレストラン。メインシェフのファビオ・アバッティスタ氏はミラノの「ウニコ」をはじめ、アランデュカス率いる「スプーン」、ロンドンの2ツ星レストラン「スクエアレストラン」で活躍するなど、若くして華麗なる経歴の持ち主。地元の滋味あふれる食材を中心にした革新的なイタリア料理に定評があり、そのテイストを堪能しに訪れるミラネーゼも後を絶たないそう。
 
もちろん、フランチャコルタワインとのペアリングは、ラルベレータ ルレ・ エ・シャトーでのクライマックス。フランチャコルタのリゾートに滞在する醍醐味を余すところなく堪能したい。

 
左/地元食材を生かしながら伝統とモダンが調和するイタリア料理。フランチャコルタワインとのペアリングを堪能したい。 中上/シェフのファビオ氏が自身の経験とインスピレーションを余すことなく披露するレストラン「レオーネ・フェリーチェ」はイタリアのみならず世界中の美食家を迎えている。 中下/専属のソムリエに相談すれば料理に合わせたワインをサーブしてくれる。 右/山小屋をイメージしたナチュラルテイストの内装が都会の喧騒を離れた大人のための休日の場を与えてくれる。

 

information

ĹAlbereta Relais & Chateaux
Via Vittorio Emanuele, 23 25030 Erbusco, Brescia, Italy
TEL +39-30-77-60-550
http://www.albereta.it/