日本とインドをつなぐ気鋭のビジネスパーソンの挑戦

「知るカフェ」は、学生と企業を結ぶ採用プラットフォームだ。2013年に柿本優祐が京都で創業した。東大、早慶などの上位校の学生が月間約3.8万人利用し、企業・団体側も内閣人事局や東京都、ソフトバンクなど200社以上が参加する。柿本代表取締役に、これまでの歩みと現在地、未来について聞く。

Profile

株式会社エンリッション代表取締役 柿本 優祐(かきもと ゆうすけ)

1987年生まれ、兵庫県神戸市出身。同志社大学商学部を卒業し、2011年に株式会社ワークスアプリケーションズに入社。2013年、株式会社エンリッションを創業する。同年、「知るカフェ」をオープン。現在、国内に20店舗を展開し、大手企業200社以上が利用する。2016年、ENRISSION INDIA PVT LTDを創業。インド工科大学と連携して、現地スタートアップへ投資を行う。アジア最大級のピッチイベントEureka! で最終審査員も務める。

大学生のキャリア支援からスタートアップ投資に至る必然

柿本が、知るカフェを構想したのは自身も同志社大学の学生だった14年前だという。「新卒採用者の3割が、3年以内に離職するという現実に異常さを感じました。そして適正化のため、タッチポイントの創設を思い付いたんです」と話す。学生起業家の道も考えたが、アイデアをより高次元で具現化するために就職し、ノウハウを蓄積した。「私には知るカフェをオープンするという目標があり、そのために若手にも裁量権のある企業を選びました。結果として、最短ルートで歩めたと思います」と振り返る。
2013年の1号店オープンから12年。現在、知るカフェは東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、京都大学、同志社大学、立命館大学などの内外に20店舗を運営する。他社による類似ビジネスも増えたが、知るカフェがパイオニアだ。学生の利用者数は月
間約3.8万人。企業・団体側では内閣人事局や東京都、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンク、資生堂など200社以上が参画する。
学生は知るカフェで無料でドリンクやWi-Fiおよび電源環境が得られ、気軽に企業と交流できる。一方、企業は自社を知ってもらい、イベントも開催でき、結果として優秀な人材を採用できる。
知るカフェの利用には学生、企業ともに「知るカフェアプリ」を用いる。学生は会員登録が必須で、同アプリはオーダー時などに彼らの個人情報を収集。企業はアプリで得られた情報をもとに、知るカフェで実施する学生との少人数交流会「Meetup(ミートアップ)」をセッティングしたり、特定の学生にデジタルパンフレット「SHIRURU(シルル)」を配布したりできる。
柿本は、「知るカフェを通じて大学1〜2年生の頃から、どんな業界があり、そこでどんな人がどんな風に働いているのか知ってもらい、仕事への興味・関心を高めてもらいたい。それによって、学生生活もより有意義なものになるはず。この思いは、創業以来変わっていません」と述べ、中長期的な展望については「地方の国公立大学を中心に、新規出店を進めたい。エリアごとに採用(需要と供給)があり、チャンスもある。最終的には、国内100店舗を達成したいです」と続けた。

知るカフェとは?

学生と企業のタッチポイント。学生は無料でドリンクやWi-Fiおよび電源環境が得られ、気軽に企業と交流できる。企業は自社を知ってもらい、知るカフェでイベントも開催でき、優秀な人材を採用できる。

投資を通じてインドの発展に寄与したい


「インドへの投資は、単なる金儲けではない。投資を通じて、インドにある根深い問題を解決していけたら」と柿本優祐株式会社エンリッション代表取締役。

知るカフェを日本で100店舗まで拡張したいという柿本優祐株式会社エンリッション代表取締役の、新たな挑戦がインドで行われている。それが、同国のさまざまな社会問題を解決する優良スタートアップ企業への投資ビジネスだ。

日本での知るカフェの成功を引っ下げ、柿本は2016年インドに進出する。当初は日本と同サービスの提供を目指したが、「カルチャーや学生の起業マインドの違いによるミスマッチがあった」という。
そこで始めたのが、世界最高峰の理系国立大学であるインド工科大学発のスタートアップに投資するビジネスだ。同大学には入試倍率1000倍を超える学部も存在し、新卒の中には4000万円を稼ぐ人もいる。アントレプレナー志向も強く、インドのユニコーン企業の経営者のうち約7割がインド工科大学の卒業生だという。サンダー・ピチャイ グーグル最高経営責任者、アルビンド・クリシュナIBM会長、ラジ・サブラマニアムフェデックス最高経営責任者らも同窓生だ。
柿本が教えてくれた。「インド工科大学は、世界トップクラスの学府であると同時に、インドの最上流に位置する投資機関でもあります。インド国内に23校を運営し、各校に投資機関が存在。当社は現地子会社を通じて、同大学が数万社の中からフィルタリングした(同大学が投資済みの)スタートアップに投資します。つまり、どれもが超有望案件であり、例えばブルーカラー労働者向けにマイクロファイナンスサービスを展開するAdhikosh Inc.は、2020年の投資実行時から売り上げが200倍に成長しました。ほかにも累計37社、約27億円の投資を実行してきました」。
インドは14億人、世界一の人口に支えられる広大なマーケットを有し、名目GDPは今年日本を上回ると予測されている。また、2016年に発足したStartup India政策により、2兆円規模の政府ファンドが設立され、規制の簡素化や税制優遇などの支援策も強化されている。スタートアップの成長・加速に伴い、新規IPO件数およびユニコーン企業も急増している。柿本は、「日本のベンチャーキャピタルでインド工科大
学内に拠点を設け、大学と連携してスタートアップ企業への投資を行っているのは当社のみです。投資先は3年以内に100社まで拡大したい」と話す。また、「『当初ミスマッチがあった』と話しましたが、インド工科大学内へのSHIRU STARTUP CAFE出店は、結果として大学、企業、投資家からの信頼獲得につながりました。決して、遠回りではなかった」と回想する。インドには今年、4店舗目となるSHIRU STARTUPCAFEがオープンする。
日本でスタートした大学生のキャリア支援が、インドのスタートアップ投資につながり、大きく花を咲かせようとしている。柿本の次の一手から目が離せない。


インド工科大学内のSHIRU STARTUP CAFE。

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(1)小・中・高校向けに体験型学習のソリューションを提供するAerobay。(2)心肺疾患の診察精度を改善するため、デジタル聴診器を開発するAyu Devices。(3)簡単に建設可能なモジュール型ハウスを販売するModulus Housing。(4)サロンの予約プラットフォーム、LUZO。経済発展により女性の間で美容への関心が高まり、サロン市場も急拡大。2024年の市場規模は約1.7兆円で、2032年には約3.2兆円に達するとされる。(5)魚のサプライチェーンを構築するFishmongers。インドにおける魚の消費量は脆弱な物流・冷蔵技術を背景に、内陸部の州では、わずか20%にとどまる。そこで、新鮮で安全な流通を目指すのが同サービスだ。

インドの市場環境

2016年に発足したStartup India政策により、新規IPO件数およびユニコーン企業が急増している。

Information

ENRISSION INDIA CAPITAL株式会社

TEL 075-417-4466
https://eic.capital-enrissionindia.jp/