星野リゾートHOKKAIDO

星野リゾートが贈る極上の北國(ほっこく)周遊旅———白老温泉・トマム・札幌すすきの・小樽にたたずむ宿を起点に道央・道南をユニークに堪能する旅の提案は、世代を超えた多彩な宿の個性を味わう楽しみもまた尽きない。四季折々の魅力あふれる宿をご紹介しよう。

取材・文:朝岡久美子

暖炉のある空間からポロト湖畔へとつながる水辺を望む。施設内中庭にはポロト湖の一部が引き込まれており、アイヌの人々の暮らしとともにあったこの神秘的な湖との一体感を感じる。

神秘の湖が誘うアイヌ伝統文化との出合い
界 ポロト

日本各地の地域の魅力を伝え紡ぐ星野リゾートの温泉宿『界』。昨年1月にブランド19施設目となる『界 ポロト』が北海道の白老温泉に誕生した。一年もたたぬ間に国内の星野リゾートファンのみならず、世界中のトラベラーたちからも高い評価と熱い視線を浴びている。

異文化との共存を目指した空間設計

札幌から函館行のJR特急列車で小一時間。白老という静かな駅に到着する。『界 ポロト』は四季折々の様々な表情を見せてくれる美しきポロト湖畔に位置する。“ポロト”というのはアイヌ語で“大きな湖”を意味する言葉だ。
アイヌの人々は古来、水や木や森、植物などの生きとし生けるもの、そして事物の中にまで神の存在を見出してきた。そんなアイヌ民族の精神にオマージュを注ぐべく、白樺の木と清流の流れがみずみずしい回廊――緑の水際に誘われ、車寄せのゲートから宿のエントランスへ。自然の色彩に同化した色使いがやさしいアプローチ空間は、日常から神秘の異世界へと誘う結界のようだ。宿の敷地内(中庭)にはポロト湖の一部が引き込まれており、暖炉のある空間から水辺に目をやると、時折、鷺が餌を探しにやってくる姿に遭遇する。
湖をバックに印象的な三角屋根の建屋が数戸軒を連ねるのが見える。アイヌの伝統的住居の三脚構造に着想を得たこのユニークな空間とフォルムを持つ建屋は、宿のシンボルでもある湯小屋だ。地域性と土地の文化的文脈を活かしたダイナミックな設計で多方面から評価を得ている建築家 中村拓志氏が手掛けたこれらの空間設計は、アイヌ文化にオマージュを捧げるとともに、異なる民族との共生を体感できるよう基本構造からディテールのエッセンスにいたるまであらゆる趣向が凝らされている。
異文化との共存を目指したあたたかな住空間は、この宿を訪れる世界中の人々をも魅了するのだろうか、開業数か月にして英国の旅雑誌「National Geographic Traveler」が選出する栄誉あるホテルアワードにおいて、「最も印象的な宿泊体験ができる宿」としてベストデザイン賞を受賞している。

上/ポロト湖畔にたたずむ湯小屋。白老温泉の湯はモール温泉と称される珍しいものだ。天然植物由来の有機物(腐植質)を含有したもので鉱物成分より植物成分が多い。含有するフミン酸やフルボ酸はしばしば化粧水や美容液にも用いられる成分だ。 下2点/三角屋根のユニークな湯小屋(「△湯」)は、アイヌ文化の建築的特徴である丸太組みの三脚構造“ケトゥンニ”から着想を得ている(写真左)。湖にせり出した露天風呂からは四季折々の景色とともに湖との一体化するかのような感覚に包まれる(写真右)。


左/全室レイクビューの客室は42室。滞在中、炉を囲んで団らんして欲しいという思いを込め、伝統的なアイヌの住居“チセ”にあった四角い炉をイメージしたテーブルが配置されている。写真は「□の間 特別室」 。 右2点/淡色の壁紙やクッションにもアイヌ文様が施されている。右上はアイヌ伝統の木彫りのオール。



右上2点/北海道の美食尽くしの特別会席から、アイヌ民族の丸木舟をモチーフとした舟形の器が粋な“宝楽盛り”(右上)と“毛蟹とホタテ貝の醍醐鍋”(右中)。和製ブイヤベースの魚介の旨味と深い味わいに、その名の通り思わず唸る一品だ。 右下/暖炉の空間は夜ともなると大人のバーに姿を変える。北海道ならではの銘柄を、燃え盛る火を見つめながらゆっくり堪能する。左/トラベルライブラリー。大人のための落ち着きのある空間だ。

髙橋志保子氏は50年以上にもわたってアイヌ民族の文化普及に携わっている「白老町指定無形民俗文化財 伝統文化継承者」。「手業のひととき」では、アイヌ伝統の歌や踊りを通して髙橋氏と交流を深め、彼らの伝統や世界観について学ぶことができる。



アイヌ文化の世界観を知り、体感する

落ち着きある色を基調とした客室空間。窓辺には眼前に迫り来るようなポロト湖のダイナミックな情景が広がる。湖を彩る白樺やカエデなどの天然林の美しさは、四季折々のポロト湖の表情を愛しむように映しだしてくれることだろう。 
窓辺のソファーに身体をうずめると、目線の先にある湖に溶け込むような得も言われぬ感覚を覚える。物音一つしない静寂の中でいつかどこかで耳にしたアイヌの伝説のように、水面と対話するうちに自らの魂が神秘の湖の中へと引き込まれてゆくようだ。 
温泉宿「界」の魅力でもあるご当地文化との出合い―――ここ白老では、夕べのひとときをあたたかな暖炉を囲み、伝統芸能であるウポポ(座り歌)を通してアイヌ文化の継承者との交流のひとときを楽しむ。歌舞のみならず、民族の習慣や衣食住、そして精神文化にいたるまで生きた言葉を通してその思いや伝統を知ることができる喜びは、この地を、この宿を訪れた思い出として深く心の中に刻まれることだろう。 
ポロト湖の霊的なまでのみずみずしさと樹木の香りに精気を養い、茶褐色の“天然美容液”の湯に癒されるひととき。そして、アイヌ文化の智慧と歴史に学ぶ新たな気づき―――この地でしか出合うことのない唯一無二の旅の醍醐味をぜひ味わって欲しい。

秋のポロト湖。神秘的な湖は四季折々の美しい情景を見せてくれる。

アイヌ文化をさまざまな角度から体感する
ウポポイ(民族共生象徴空間)


ウポポイ全景(提供:(公財)アイヌ民族文化財団)

『界 ポロト』に隣接する『ウポポイ(民族共生象徴空間)』は、アイヌ文化をさまざまな角度から伝承・共有するとともに、人々が互いに尊重し共生する象徴的空間としてアイヌの世界観、自然観等を学ぶことができる施設だ。『国立アイヌ民族博物館』や各種シアターを併設しており、古式舞踊等の鑑賞や食文化体験なども可能だ。


古式舞踊披露の模様。“イヨマンテ(熊の霊送り儀式)”の踊りから。

Information

ウポポイ
(民族共生象徴空間)
北海道白老郡白老町若草町2-3
https://ainu-upopoy.jp/

Information

界 ポロト
北海道白老郡白老町若草町1-1018-94
ご予約・お問い合わせ:
Tel. 050-3134-8092 (9:30〜18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiporoto/

写真:イノウエミチカ

大自然と極上の北の味覚を味わう五感の癒し
星野リゾート リゾナーレトマム

札幌駅から帯広方面へと向かうJR特急列車に乗って東へ約1時間40分。占冠村のトマムという小さな駅に着く。新千歳空港からも直通で約1時間30分だ。この小さな駅が、1,000ヘクタール(東京ドーム約213個分)を超す壮大な敷地を誇る『星野リゾート トマム』へのゲートウエイだ。全季節、全世代が楽しめる一大リゾートの魅力を余すところなくお伝えしよう。


東京ドーム213個分を誇る『星野リゾート トマム』の全景を標高1,088mの「雲海テラス」から俯瞰する。夏から初秋にかけての早朝、ベストコンディションであれば神秘の光景に出合える。

多彩な施設が集う一大リゾートタウン

快適なJR特急のグリーン車での小トリップを経てトマム駅に到着。駅からは専用シャトルバスに乗り、10分程で『星野リゾート トマム』のゲートに到着する。見渡す限りの大地には“一つの街”に思えるほどの充実した施設群が点在する。落ち着いた雰囲気の二棟のタワー型リゾート『リゾナーレトマム』、アクティブな滞在を楽しみたいゲストやファミリー世代向けの『トマム ザ・タワー』をはじめ、「TOMAMU Wine House」やカフェ・ショップ・レストランが立ち並ぶストリート、そして冬ともなればスキーヤー垂涎のパウダースキーを堪能できる全29コースが整備されたゲレンデとスノーアクティビティ用の施設、さらに牛・羊・ヤギや馬などが暮らす100ヘクタールの「ファームエリア」と、全季節、全世代が楽しめる多彩な施設が点在している。と、いっても決してテーマパークのような箱型リゾートではなく、生きた魅力にあふれているところが星野リゾートの運営する施設の醍醐味だ。今回はその中からPAVONEの読者にふさわしい選りすぐりの大人のトマム滞在の極意をお伝えしよう。


左上/28階の上層階に位置するデザインスイートツインルームのリビングエリア。パノラマを望むバーカウンターや展望ジェットバス、プライベートサウナも兼ね備えた100㎡の大人の客室空間。 右上2点/「TOMAMU Wine House」。北海道のナチュラルワインを中心に希少な銘柄も気軽に味わえるエノテカ。「ファーム星野」で独自生産された各種チーズも味わえる。 左下/「ファーム星野」のプロジェクトリーダー宮武宏臣氏は「農業で人を集める」という農業分野におけるソフト整備と充実化を実践するエキスパートだ。 右下/スキーヤーズスイートルーム。スキーをこよなく愛する人たちに贈る一室だけのコンセプトルーム(100㎡。シングルリフトチェアや木製のスキー板とストックを家具やオブジェにリメイクしたアイテムが空間を彩っている。

『リゾナーレトマム』の極上滞在

宿泊は上質な空気感と雄大な自然の情景に包まれた『リゾナーレトマム』。31階の上層階にある極上イタリアン「OTTO SETTE TOMAMU」の存在はもとより、全200の客室はオールスイートのラグジュアリーな宿だ。特に2017年にリノベーションされたばかりの窓辺のバーカウンターも兼ね備えた「デザインスイートツインルーム」は、28階フロアから緑深き山々を一望するパノラミックな空間が大人の滞在にふさわしい。四季折々の山の情景を眺めながら展望ジェットバスやプライベートサウナでアクティブに動かした身体を癒すのは至福の喜びだ。

メインダイニング「OTTO SETTE TOMAMU」の秋のコースから。北海道の旬の食材だけを集めた8品からなるコースを、時間をかけてたっぷりと堪能する。ワインペアリングもイタリアと北海道のワインを中心とした秀逸なラインナップが用意されている。左上/小前菜「彩り豊かな小さな前菜」 右上/牛フィレ肉と鮑のアロースト 下/秋刀魚の冷製カッペリーニ

その時期にその地で一番おいしい食材を

『リゾナーレトマム』のメインダイニング「OTTO SETTE TOMAMU」。“カレンダーリオ・ガストロノーミコ(伊語で“食の暦”という意)”というコンセプトを掲げ、全北海道地域にまでダイナミックに視野を広げてシェフ自らが旬を迎える食材のある場所へと足を伸ばしている。地産地消というエリアの枠組みを超えた豊かな食材を、いわゆるスローフードの先駆者的存在である北イタリアのピエモンテ地方、そして海に面したリグーリア地方の伝統的な料理法から着想を得た独創的なコース仕立てで供し、食する者の五感をたっぷり楽しませてくれる。まさに、北海道だからこそ実現可能なエキサイティングな食空間だ。このレストランで供される乳製品の一部は敷地内にある独自の生産農場のものを用いており、現在の食のトレンドでもある“ファームtoフォーク”が実現されているのも実に興味深い。

企業独自の農業プロジェクト「ファーム星野」の実現

星野リゾートでは、「ファーム星野」と呼ばれる同社独自の農業プロジェクトの取り組みにも力を入れている。それをいち早く実現したのがこのトマムだ。乳製品の生産のみならず、牧草地の育成から乳牛の飼育、そして各種アクティビティの提供など、農場をめぐる包括的な観光資源の開発を手掛ける同プロジェクト。敷地内の100ヘクタールの「ファームエリア」では日々、農業や牧畜を心から愛するスタッフが訪れるゲストにその魅力を存分に味わってもらえるよう情熱を燃やし続けている。プロジェクトリーダーの宮武宏臣氏はこう語る。宮武氏は、その昔、ゴルフ場として開発され尽くしてしまったこのトマムの雄大な牧草地を、同プロジェクトの立ち上げとともに約7年の歳月をかけて有機的な土壌へと復活させた立役者だ。  
「5年前には5頭だった牛も今は30頭にまで増え、ようやくトマムの大地に原風景といえる美しい牧草地がよみがえってきました。しかし、今が第一段階です。今後は原点に立ち返って、牛たちがグラスフェッドだけで育つよう有機的な牧草地づくりを目指し、豊かな牧歌的風景と動物たちとのふれあい、そして自家製の食材を活かしたバラエティ豊かな食でお客様に癒しを与えられたらと願っています。“旅と農業”というのは実はベストマッチなもので、農業が生みだす景観というのは最高の観光資源なのです」 
最後に忘れてはならないのが、「雲海テラス」の存在だ。夏から初秋にかけて、かなりのベストコンディションでない限り出合えない神秘の光景だが、コロナ禍を経て、標高約1、088mにある雲の中の展望スポットの充実度はますますパワーアップしていた。  
朝から晩まで休息も惜しみたくなるほどに魅力的なアトラクションいっぱいの『星野リゾート リゾナーレトマム』。一~二泊の滞在でも極上の体験は可能だが、ぜひゆったりと大自然に浸り、その醍醐味を体験し尽して欲しい。

トマムは冬の滞在もまた魅力的だ。写真は敷地内に冬季だけ設営される「氷の露天風呂」。他にも、「氷のホテル」や朝一番のファーストトラックを楽しめる“モーニンググローリー”や、今冬1月上旬からゲレンデを贅沢に独占する2泊3日の宿泊プラン「贅沢トマムパウダースノー旅」も提供している。


ⓒShogo



「I’m on cloud nine(この上ない幸せ)」という英語的な表現にちなんで、「雲海テラス」での過ごし方を提案する“9つ”の展望スポットを増設中だ。写真は上からCloud Bar(クラウドバー)/ Cloud Pool(クラウドプール)/Cloud Walk(クラウドウォーク)。現在、6スポットまで完成している。

Information

星野リゾート リゾナーレトマム
北海道勇払郡占冠村字中トマム
予約・お問い合わせ:0167-58-1145 (10:00AM〜6:00PM)
https://www.snowtomamu.jp

幅広い世代が集う新感覚の宿へ――小樽・札幌

北國周遊ならではの醍醐味――小樽と札幌に近年誕生したユニークな二つの宿もぜひ訪れてみてはいかがだろうか。きっと新たな発見があるに違いない。



左/デラックスルーム。 右上/ニシンのミックスパエリア。ニシン漁で栄えた港町ならではの極上のパエリアを味わいたい。 右中/旧商工会議所の建物らしく重厚感ある上質なレトロ感が漂う館内。 右下/オルゴールで有名な小樽。客室空間でオルゴールの響きを楽しむのも粋な過ごし方だ。

OMO5小樽 by 星野リゾート

小樽港の至近距離、かつての官庁街と商業の中心地に位置する『OMO5小樽 by 星野リゾート』。宿の建物も旧小樽商工会議所をリノベーションした魅力あふれる空間。華やかなりし近代開花の時代の面影を色濃く遺す北の港町ならではの風情を存分に堪能したい。ビュッフェスタイルを取り入れたコース仕立のスパニッシュディナーも秀逸。ニシンのミックスパエリアや朝食の海鮮パフェもぜひ味わって欲しい。

Information

OMO5小樽 by 星野リゾート
北海道小樽市色内1-6-31
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo5otaru/

OMO3札幌すすきの by 星野リゾート

日本三大繁華街である札幌すすきのエリアの真っ只中に位置する『OMO3札幌すすきの by 星野リゾート』。エントランス空間では架空のネオンサインがお出迎え。かつての花街すすきのを味わい尽くすパワーを与えてくれる。界隈を知り尽くしたレンジャー部隊がお供する“すすきのはしご酒ツアー”や“すすきのゼロ番地開拓ツアー”など知られざる名店を巡る各種ツアーも多数用意されており、数時間にしてあなたも見事にすすきのエキスパートに。


左/スーペリアツインルーム。 右上/エントランスを飾る電飾看板。すべてオリジナルの架空看板なのも面白い。 右下/すすきの最古の知られざる飲み屋街“すすきのゼロ番地開拓ツアー”はディープな滞在を希望するゲストにお薦めだ。

Information

OMO3札幌すすきの by 星野リゾート
北海道札幌市中央区南5条西6−14−1
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo3sapporosusukino/

ご予約・お問い合わせ: 050-3134-8095 (9:30AM〜6:00PM)