――里山の知恵と恵みを感じる―― 星野リゾート界川治

その昔、土方歳三も傷を癒したという栃木県の名湯川治温泉。
秋冬の夜長にふさわしい愉悦の宿の魅力をお伝えしよう。
取材・文:朝岡久美子

上/界川治が誇る露天の岩風呂。アルカリ性の単純泉は、神経痛やリウマチなどはもちろんのこと、怪我に効能があるという。下左/敷地内にある水車小屋。
川治らしい里山の光景が広がる。下中/「烏山和紙」の手漉き体験。この地に代々伝わる和紙は1300年余の歴史があり、希少価値の高いものだ。


  • ロビ・ラウンジ。本物の瓢箪をくりぬいて作られたランプが幻想的だ。

地域特有の伝統文化を生かした設えが美しい“ご当地部屋”。栃木県鹿沼市に
伝わる希少な和紙「野州麻紙」の大胆なサイドボド
が印象的だ。

    • 館内にある“里山工房”では石臼を使ってきな粉づくりを楽しむ

里山の恵みを堪能する滋味深い食もこの宿の醍醐味だ。秋冬の特別会席では、秋冬の夜長にふさわしい愉悦の宿の魅力をお伝えしよう。
“いのししと和牛の味噌土手鍋”や里山の風情を感じさせる“宝楽盛り”に舌鼓を打つ。

土方歳三ゆかりの湯治場

栃木県鬼怒川温泉の奥深く、鬼怒川と男鹿川が交わる渓谷に位置する名湯川治温泉。戊辰戦争もたけなわの慶長年、新撰組の土方歳三が宇都宮城に立て籠もる新政府軍との戦いで被弾した際に、この地で傷を癒したといわれている。

勇壮な流れとともに轟々と水しぶきを上げる男鹿川の渓流――星野リゾート界川治は、力強い木々の生い茂る深き里山の郷愁と歴史の流れを感じさせる美しき情景の中にたたずむ。

水車小屋をめぐる風情ある庭をそぞろ歩き、館内に足を踏み入れると、ほのぼのとした里山の営みを思わせる懐かしい光景に出合う。昔ながらの里山の知恵に触れる喜び――それこそが、この宿の魅力なのだ。

里山の営み、懐かしい光景

石臼を用いたきな粉づくりや、当地に代々伝わる烏山和紙の手漉き体験。本物の瓢箪で形作られた天井ランプの可愛らしい姿や、土地の恵みを感じさせる益子焼や大谷石の調度品のぬくもり――。誰もが心の奥底に抱いている“童心”をくすぐるコトやアイテムがこの宿には溢れている。滞在中、そんな他愛もない里山の日々の営みや情景に触れることで、心身ともに癒されてゆく自らを感じることができるだろう。

11月の中旬には紅葉の終わりを告げる川治では、冬の楽しみに思いを馳せるのも悪くない。平家落人の里として知られる湯西川温泉郷で開催される「湯西川温泉かまくら祭」は、日本夜景遺産にも認定された冬の風物詩だ。宿に戻れば、いちごのプランターを設えた水車小屋で、当地の冬の味覚の代表格“とちおとめ”(いちご)摘みも存分に楽しめる。もちろん、雪見露天風呂も里山ならではの醍醐味だ。

これからの季節、大らかな渓谷の営みに育まれた里山の恵みを里山の営み、懐かしい光景石臼を用いたきな粉づくりや、当地に代々伝わる烏山和紙の手漉き体験。本物の瓢箪で形作られた天井ランプの可愛らしい姿や、土地の恵みを感じさせる益子焼や大谷石の調度品のぬくもり――。誰もが“童心に戻って”味わってみてはいかがだろうか。

Information
星野リゾート界川治
栃木県日光市川治温泉川治22
お問い合わせ・予約:Tel.0570-073-011
界予約センタ(9:00~20:00)
https://kai-ryokan.jp/kawaji/

風と水がめぐる宿星のやグーグァン

太古の自然を感じさせる山々に向かい、堂々とたたずむ“温泉渓谷の楼閣”。鳥や植物のささやきに心を開き、降り注ぐ光と水音に耳を澄ませる。
日本の温泉宿のおもてなしとググァンの大自然に休らう極上の温泉逗留―。二つの文化が出合う愉悦の宿に憩う。

メインダイニングに設えられたアート空間。グーグァンに古くから住む原住民タイヤル族の伝統織物で彩られた華やぎの空間だ。


プルサイドには東屋が設えられており、一日中ゆったりと過ごせる。


  • 朝は光の中で深呼吸!大自然の恵みを力いっぱい感じられるアクティビティも楽しみたい。

  • “温泉渓谷の楼閣”を望む。

中庭には壮大なウォーターガーデンが広がる。光り輝く情景に、水と風がめぐる。

〝温泉渓谷の楼閣〟誕生

『星のや』ブランドにまた一つ新しい宿が加わった。その名も『星のやグーグァン』。台中市内から車で東へ約一時間半。山間の道をくぐりぬけると、グーグァン(谷関)という台湾屈指の温泉街にたどり着く。どことなく昔懐かしい昭和の温泉街を思い起こさせる情景。ここはかつて「明治温泉」と呼ばれた老舗の温泉郷だ。

原住民族タイヤル族の地であったグーグァンで、世紀初頭、彼らの手によって源泉が発見された。時は日本の統治時代。明治政府の世にこの地に温泉文化が発展したことから「明治温泉」と名付けられのだという。海抜約800メートル、辺りは3000メートル級の山々が連なる景勝地だ。

『星のや』ブランド七軒目の施設、そして海外ではバリに続く二軒目の施設のコンセプトは、〝温泉渓谷の楼閣〟。壮麗な山々に対峙するかのように全面ガラス張りの瀟洒な温泉宿だ。軽井沢や竹富島などに〝懐かしい日本の集落〟の姿を描き出してきた『星のや』としては、珍しいコンセプトに思える。しかし、実際に滞在してみると、地上五階建ての垂直型の施設となった理由が理解できるだろう。太古の自然を描き出すグーグァンの力強い山々のエネルギーを感じるには、それ相当の目線の高さが必要なのだ。

と、いっても、大地に息づく恵みを感じられる喜びもまたこの宿の魅力だ。壮大な中庭に形づくられたウォーターガーデン。湧き出でる山麓の水が宿をめぐり、草木を、そして訪れる人々の心を潤してくれる。風と水のめぐる庭は、山から降り注がれる風とともに、心も身体も清めてくれる。温泉のパワーだけではなく、谷合の自然の恵みすべてをエネルギーとして感じられるのがこの宿の醍醐味だ。


    • 客室の半露天風呂。
      弱アルカリ性の優しい泉質で、何度浸かっても決して疲れを感じさせないというが、実際体験してみて納得させられた。
    • 50室ある客室は全室半露天風呂付で、そのほとんどが温泉フロアを兼ね備えたメゾネットスイートタイプだ。


  • ラウンジ・ロビーは、いかにも『星のや』らしい。

  • エントランス空間は日本人の気鋭アーティストによる作品で彩られている。メリハリのある和を感じさせる空間だ。

温泉逗留の一日の始まりは台湾式粥朝食膳で。カジキマグロの田麩や台湾式の高菜などとともに頂く彩り鮮やかな粥は絶品、かつ滋養に満ちている。

夕食は『星のや』らしい日本の会席に舌鼓を打つ。温泉養生に欠かせない食のラインナップは、日本料理からアラカルトまでと豊富に用意されている。夜の会席から、お造りや茄子の利休仕立てなどが贅沢にあしらわれた“宝楽盛”


  • 海老・蒸し鮑の土佐酢ゼリーと、グーグァンの名物チョウザメの南蛮漬け(ともに先附)。チョウザメはこの土地の名物。あらゆる方法で食されている。

  • 高級魚ハタの杉板焼き。

台湾と日本、二つの文化の香りに憩う

温泉街に立つ塔のような外観もサプライズだが、客室もさらにユニークだ。客室の多くが、メゾネットスイート。半露天風呂の温泉フロアが階下や階上に設えられており、我が家にいるような寛ぎを満喫させてくれる。温泉はもちろん源泉かけ流し。グーグァン温泉の泉質は、弱アルカリ性単純泉で比較的濃度も低く、なめらかで柔らかい湯は台湾でも〝美肌の湯〟として知られている。

館内のあちらこちらに見られるアート作品も心に響く。グーグァンの大自然の造形をイメージした抽象的な絵画やオブジェ。日本の新進気鋭の現代作家たちによる作品だ。そして、グーグァンに暮らすタイヤル族に捧げられたオマージュ。壮麗な空間に描き出された伝統織物による彩りの設えだ。台湾と日本、二つの文化の香りはこんなかたちでも共鳴し合っていた。

最後に忘れてはいけないのがスタッフの存在だ。『星のやグーグァン』のスタッフは、ほとんどが現地で採用された精鋭たち。彼らの日本語の美しさ、目の輝き、そして人々を癒す力に心を奪われる。日本の文化を愛し、台湾の良さを、グーグァンの大地の恵みを一人でも多くの人々に伝えたいという熱意に溢れていた。

台湾の人々の優しさと日本の宿のおもてなし。そんな二つの良さが生みだす新しいスタイルの温泉宿『星のやグーグァン』。二つの力が一つになる喜びは、訪れる人々に明日への活力を与えてくれるに違いない。

薄暮に光を放つダイニングの情景。

Information

星のやグーグァン
HOSHINOYA Guguan

16, Wenquan Ln., Sec.1, Dongguan Rd.,
Heping Dist.,424 Taichung City
日本での予約・お問い合わせ:星のや統合予約 0570-073-066(9:00~20:00)
https://hoshinoya.com/