Architecture 進化する建築
~多様化する建築の現在地~

© APOLLO Architects & Associates

様々な分野において、価値観が多様化・細分化される昨今、建築の分野ではトレンドはどこへ向かおうとしているのか。個人住宅や別荘をはじめ、商業施設やリゾート施設など、世界に名を馳せる建築家が創造する建築の現在地を探ってみま。

INTERVIEW ① 進化する建築

価値を高めて価値を交換するパブリックを意識した邸宅へ

語り手 黒崎 敏さん
APOLLO Architects & Associates 代表
撮影:大橋マサヒロ

自身の所有欲を満たす住宅から人との関係性を築く住まいへの進化

 昨今、ホテルなど宿泊施設の設計をしていると、あまり飾らない日常の延長線上にある豊かさをラグジュアリーと捉える傾向を感じます。日常と非日常の間にある「半日常」のような空間を求められるケースが多いのです。これまでホテルの空間は、近未来的なものやヴィンテージ、ミニマリスムなど様々なブームがありました。イアン・シュレーガーやフィリップ・スタルクなどからの流れを受けて、エースホテルやノマドホテルの登場をきっかけに、宿泊者以外の人にもロビーを開放し、オープンな社交場とするロビーソーシャライジングという発想が定着しました。2015年頃からでしょうか。「レジデンシャル」というものがライフスタイルホテルのテーマになってきて、こうしたホテルの流れの延長線上に、今、住宅がある気がしています。

 プライベートハウスを手に入れることは、食べたい物を食べ、好きな洋服を着るといった行為の同一線上にあった時代がありました。所有者の欲望はクローズドなもので、行き着くところは自分の所有欲を満たすことだけ。飽きたら手放すといったことが多々みられました。かつて日本では家に下宿人やお手伝いさんなどがいて、非家族と一緒に暮らすための空間がありました。ところが、核家族化やシングル化が進むに連れ、家に人が集まらなくなったことが影響したのでしょう。自分の趣向にだけ合う空間を望むようになり、家が窮屈で閉ざされた空間になってしまったのです。

 人が家に出入りするようになると、住宅に対する根本的な考え方に変化が見られるようになります。こうした状況に一役買ったのがツーリズムです。民泊が広まり、国籍や性別を超えて家に人が出入りするようなると、彼らが満足する空間造りを自宅に対して初めて意識するようになったのです。これはプライベートなものからウェルカムな感覚を有すパブリック性の強いものへと住宅を進化させる大きな契機となりました。

 同時に生活の豊かさというのは、友人を招いてパーティをしたり、友人の家にお互いが行き来し合ったりと、人との繋がりや関係性を築くことにあると気付かされました。こうした背景もあってか、最近では積極的にゲストルームを造る動きが見受けられるようになりました。パブリック性の強い空間を創造することに、家としての価値を見出しているわけです。

 私は今後、住宅はそれぞれが所有している住宅の価値自体を交換していく時代になると考えています。良い価値を持っていないと価値の交換はできません。だからみな良い価値を生み出そうとするのです。例えば、あるクライアントから、倉庫にしまっていたアート作品を飾るための住居の設計を依頼されたことがあります。住居型の美術館を造りたいというのが依頼のスタートだったのですが、この住宅が完成すると、これまでプライベートな空間だった住宅に、知り合いが作品を鑑賞しに訪ねてきたりして、そのクライアントの生活が少しずつ変わっていきました。交換できる価値を生み出そうとすることが、実は豊かな生活をしていくためのガソリンの役割を担っている、そんなことが分かるいい例だと思います。

 家族がいるから住宅を建てていたという時代と比べて、今、家を持つ動機が大きく変わってきています。それに伴い、新しい住宅も生まれてきています。今後、さらに進化系の住宅が生まれてくると思いますが、私はその際、「パーティー」や「アート」、「スマートホーム」がキーワードになると思っています。新しいフェーズに入り、これまで住宅になかったことが、これからの住宅の中心になっていく。そんな雰囲気を感じずにはいられません。

Profile

黒崎 敏 Satoshi Kurosaki
建築設計事務所APOLLO Architects & Associates 主宰。
明治大学理工学部建築学科を卒業後、積水ハウスの東京設計部にて新商品の企画開発に従事。FORME 一級建築士事務所を経て、2000 年にAPOLLO を設立、現在に至る。BUILD Architecture Award 2018 で「2018 Architectural Innovation Awards」やWallpaper Design Award 2016 で「Best New Private House」を受賞するほか、Archiproducts Design Awards 2018 で審査員を務めるなど、海外でも高い評価を得ている。

GRID (関東近郊)
美術館で暮らすアートコレクターの家

© APOLLO Architects & Associates

DATA

竣工:
2016年12月
敷地面積:
08.81㎡(93.42坪)
建築面積:
126.44㎡(38.25坪)
1F 床面積:
126.44㎡(38.25坪)
延床面積:
126.44㎡(38.25坪)
規模:
地上1階建
用途:
専用住宅
建築写真:
西川公朗

Le49 (神奈川県鎌倉市)
日本文化を感じさせるインターナショナルなパーティー型セカンドハウス

© APOLLO Architects & Associates

DATA

竣工:
2011年12月
敷地面積:
293.31㎡(88.72坪)
建築面積:
111.92㎡(33.85坪)
1F 床面積:
79.29㎡(23.98坪)
2F 床面積:
103.41㎡(31.28坪)
延床面積:
182.70㎡(55.26坪)
規模:
地上2階建
用途:
専用住宅
建築写真:
西川公朗

SBD25 (韓国・ソウル市)
ヴィンテージ家具を内包するフラッグシップ型住宅

© APOLLO Architects & Associates

DATA

竣工:
2012年5月
敷地面積:
371.91㎡(112.50坪)
建築面積:
110.20㎡(33.33坪)
B1F 床面積:
276.19㎡(83.54坪)
1F 床面積:
110.20㎡(33.33坪)
2F 床面積:
110.20㎡(33.33坪)
延床面積:
211.98㎡(64.12坪)
規模:
地下1階地上2階建
用途:
専用住宅
建築写真:
西川公朗

© APOLLO Architects & Associates

Information

APOLLO Architects & Associates
TEL 03-6433-5095
http://kurosakisatoshi.com

INTERVIEW ② 進化する建築

中国で進化する建築
インスタジェニックな空間造り

  • 言几又 ·迈 科中心旗舰店
    住所:中国西安市高新区錦業路12号
    YJY MAIKE CENTRE FLAGSHIP(STORE)
    No.12,Jinye Road, High Tech Zone, Xian,China


  • © Nacasa & Partners

建築家・池貝知子が語る、中国の最新建築事情

二子玉川 蔦屋家電の内装設計で知られる池貝知子氏。ここ数年は活動の範囲を国内からアジアにまで広げ、特に中国では昨年、深圳と西安で2つの大きなプロジェクトを終えたばかり。そんな池貝氏が実際に肌で感じた中国での建築事情について語る。

Profile

池貝 知子 Tomoko Ikegai
生活環境空間の設計やデザインを手がける株式会社アイケイジー代表取締役。日本女子大学家政学部住居学科卒業後、松田平田坂本設計事務所(現松田平田設計)に入所。スタジオアキリを経て2006 年にアイケイジーを設立。現在に至る。「代官山T-SI TE」のクリエイティブ・ディレクションをはじめ、「二子玉川 蔦屋家電」やB&B ITALIA JAPAN のショールームの内装設計を手がけるなど、住宅設計だけでなく国内外の商業施設の設計デザインに携わっている。2005 年より日本女子大学家政学部住居学科非常勤講師。著書「空間演出家 池貝知子の仕事と意見」(ACCESS)
© Nacasa & Partners

中国でのネットの影響力

 あるイタリアのハイエンドブランドによる中国でのプロモーション動画が、差別的な表現ではないかと大きな物議を醸した一件をご存知の方も多いかと思います。この出来事を中国の人たちはどのように捉えていたのでしょうか。そのブランドの洋服を切り刻む様子がネット上にアップされる一方で、中国国内ではブランドのロゴが入ったリュックやTシャツを着た人を多く見かけました。怒っていたのではないかと知人の中国人に聞いてみると、「そんなのインスタにあげるためのネタに過ぎない」という答え。単なるパフォーマンスではないのかと言うのです。目立つパフォーマンスをしてインスタにアップすると、自分の知名度が上がってフォロワーが増える。もちろん本当に不快に思われた方もいますが、一部ではそういう考え方の人もいたようなのです。

 中国の若者のテレビ離れは日本以上らしく、テレビコマーシャルはすでに効果的な広告手段ではなくなっているようです。いまや広告はネット上のインフルエンサー頼み。だから、企業は一般の人が発信する自社の情報に関して、それが拡散されることをとても重要視します。実際、私が関わった商業施設についても、ネット上の口コミで広まり、お店にお客さんが押しかけ、急遽、椅子を増やさないといけないような事態になりました。中国でのネットの影響力の大きさを直に感じた瞬間でした。

  • © Nacasa & Partners

Information

ikg inc.
TEL 03-6277-3544
http://ikg.cc

TREND コンテナ建築

ARCHITECTURE × CONTAINER
建築シーンで利用されるコンテナモジュール

建築用のコンテナモジュールをブロックのように自由に組み合わせるだけ。シンプル工法ながらも、高いデザイン性を発揮し、ホテルやショップ、住宅など、コンテナ建築は多岐にわたる用途で活躍している。

Casual Resort COFF Ichinomiya
リノベーションした温かな印象の木造家屋に、モダンでスタイリッシュなコンテナ建築を対比的に配した宿泊施設。デザイン性の高さから九十九里浜のランドマークになっている。

HOTEL R9 SANOFUJIOKA
宮城県石巻市で震災復興に従事する人のために宿泊施設として利用されたコンテナモジュールを移設し、リニューアルしてホテルとして再利用してい。

コンテナ建築の可能性

コンテナ建築はコンテナモジュールの構造特性を生かして、限られたスペースにおいても自由な建築を可能とするのが特徴だ。例えば、ご自宅の庭先にシガールームなど趣味の部屋を増設したり、アイデア次第で用途の幅は無限に広がる。他方、コンテナ建築を新たな投資商品にするという動きも見られる。なぜ今、コンテナ建築が注目さるのか。その理由を建築用コンテナの製造・販売から設計・建築までを手がけるデベロップ社に聞いた。

― どのようなコンテナを使うのでしょうか。

 デベロップ社が提供するコンテナモジュールは高品質な建築用のものです。一般的に海上輸送などで見かけるコンテナとは異なり、柱と梁だけで耐震設計されたラーメン構造を採用しています。そのため、安全性を確保した上で天井や床、壁面の開口や仕様を自由に設計することができます。もちろん建築基準法にも適合していて、一般的な店舗や住宅と同じように建築確認を受けることもできます。

― コンテナ建築の特徴とは?

 コンテナ建築の特徴は大きく3つ、「フレキシブル性」「デザイン性」「短工期/簡単施工」が挙げられます。まず、在来工法に比べて壁や筋交いが少ないといったコンテナの構造特性上、間仕切りのないダイナミックな大空間の確保など、コンテナ建築には自由な建築を実現できるフレキシブル性の高さがあります。また、移設や増改築、レイアウトの変更など、建築後のニーズの変化に柔軟に対応できるのも、他の建築にはない特徴と言えるでしょう。デザイン面で言えば、アート性を重視したインパクトのある外観を実現できます。これは無駄を削ぎ落としたシンプルなスクエア形状のコンテナモジュールならではの利点です。また、コンセプトに合わせた多様な空間デザインが可能で、ドアや窓の開口サイズを自由にアレンジしたり、他の建築と同様に全面ガラス張りにしたり、さらには内装や床材のカスタマイズもできます。

― 工期の目安はどのくらい?

 工期の短さはコンテナ建築の最大の特徴といってもいいかもしれません。短工期を可能にするのは、国の認定を受けた工場で出荷前に外壁や屋根などの施工を完了しているから。建設現場では主にコンテナモジュール同士を組み立て、内装を仕上げるだけです。例えば、在来工法の場合、およそ1週間かかる28戸の1棟建ての躯体・外壁工事を、44個のコンテナを積み上げて連結することで1日で完成させ、基礎工事着工後、45日間(休工日を含む)の短工期で竣工させたケースもあります。

工場で組み立ててから現場へ。だから工期が短くなるという。

― 現在、実際にどのようなシーンで利用されていますか?

 コンテナ建築はこれまでにない新たな価値を創造する建築として注目の高さを感じています。これまでにコンテナモジュールを使った店舗や事務所、集合住宅や戸建て住宅などの建築工事を手掛け、その用途は実に多岐にわたります。主に地方ではご自身の土地にメゾネット型の賃貸ガレージを設けたりするなどして、土地に新たな価値を生み出すためにコンテナ建築を活用されている方が多くみられます。一方、都心ではご自宅の庭にコンテナハウスを置いて、ご主人の趣味の部屋にされているような方もいらっしゃいます。

  • 4階建ての住宅兼スタジオ。鉄扉の素材感をそのままに、コンテナモジュールならではのエッジの効いたデザインとなっている。

  • モルタルで塗ったコンテナによる別荘。地中海の建造物をイメージしている。

― 楽天LIFULL STAY社と提携してヴィラを造られています。

 昨年10月、楽天グループの民泊事業会社である楽天LIFULL STAY社との間で、同社のサブブランドであるコンテナ型宿泊施設「Rakuten STAY VILLA」の開発や販売における業務提携をしました。この宿泊施設の1号店は今年春、沖縄県宮古島市で開業を予定しており、建築用コンテナモジュールを活用した宿泊施設として注目されています。他方、ヴィラは投資商品として不動産オーナーからも注目されており、昨年から申し込みを開始。建築用コンテナモジュールを2個以上組み合わせた施設を1戸として、最低注文受付数を原則3戸として販売をしています。

コンテナ型宿泊施設「Rakuten STAY VILLA」。コンテナモジュールによるヴィラと、テラスやプールなどで構成される。

― コンテナ建築に今後、期待することは?

 コンテナ建築は耐久性の高い建築用コンテナモジュールを使用するため、建築物を移設する際であっても、完全に解体することなくリユースすることも可能です。また、撤去に際してもコンテナ自体をリユースでき、環境への負荷を大幅に軽減できるサスティナブルな次世代型建築としても大きな注目を集めています。今後も時代の要請に応え、従来工法にはない視点からも、持続可能な社会に貢献できると考えています。

Information

株式会社デベロップ
TEL 047-320-0119
https://www.dvlp.jp

NEW VALUE SPECIAL イベント開催

「進化するVILLA エスケープナイト」~コンテナ新投資の可能性~

世界の建築が進化するいま、建築用コンテナを使用したホテルやヴィラなど、新たなスタイルの建築が脚光を浴びています。2月下旬から3月上旬に開催予定のイベント「進化するVILLA エスケープナイト」では、投資案件としての事例をプレゼンテーションする他、南国のヴィラでのパーティーをイメージした懇親ディナーを開催。一日限りの賑やかな夜をお楽しみいただきます。

  • [日時]2月下旬~3月上旬予定
  • [会場]都内某所予定
  • [申込]TEL 03-5774-0558(PAVONE イベント受付)

テラスにジャグジーを備えたCasual Resort COFF Ichinomiyaの客室。