Pierre-Yves Lombard
ロンバー・オディエ信託株式会社 代表取締役
ピエール・イヴ・ロンバー

創業228年を超えるスイスで最も長い歴史を持つ資産運用会社であるロンバー・オディエ・グループ。グローバルにウェルス・サービスを展開し、アジアにも35年以上にわたって拠点を維持している。2023年、超富裕層向けのサービス向上のため、株式会社みずほフィナンシャルグループと業務提携を開始。日本の現地法人であるロンバー・オディエ信託株式会社の代表取締役兼PB統括ディレクターであるピエール・イヴ氏に現在の金融情勢や日本市場への期待などを伺った。

ロンバー・オディエのビジネスと歴史 そして日本でのプレゼンスについて

「1796年、スイスのジュネーブで創業したロンバー・オディエは世界最古のプライベート・バンクの一つであり、サステナブル投資に力を入れている世界有数のグローバル・ウェルスおよびアセット・マネージャーです。創業者一族(ロンバー家、オディエ家、ダリエ家、ヘンチ家)はロンバー・オディエを創業時から現在に至るまでの成長に携わり、現在は8代目の世代が事業の様々な経営に携わっています。228年以上の経験を持ち、富裕層向けの資産運用のパイオニアとして、サステナブルとイノベーションへの強いコミットメントを維持、お客様のニーズに絶えず応えてきました。私どもは業界の中で最も高い自己資本比率(Tier-1比率32%)と、同規模の銀行としては最高の信用格付(AA-)を有し、対外債務や株主をもたない、世界で最も強固で安全な金融機関の一つです。我々は日本に1992年に東京事務所を開設しましたが、常に日本の起業家、ビジネスリーダー、ファミリー・ビジネスと協力して、彼らの資産を守り、増やし、次世代へと世代を超えて伝えていくことを使命と考えてきました。我々は常に日本を重要な市場と考えており、その明るい未来を強く信じており、今後も日本への投資を継続していきます」

ロンバー・オディエの長い歴史の中、転機となったものとは

「我々の歴史には単一の転換点があるわけではなく、むしろ保守的な経営と絶え間ないイノベーションが組み合わさった文化があります。長年にわたり、誠実さと顧客中心主義という基本理念に忠実であり続けながら、技術の進歩を取り入れ、世界的に拠点を拡大することが、ウェルス・マネジメントとアセット・マネジメントの世界的なリーダーとして必要でした。1790年代後半の創業期にはフランス革命が進行し、フランス王政が崩壊、ナポレオンは一時的にジュネーブを占領、イタリア遠征から戻る途中、将校とともに我々の本部に滞在しました。その激動の時代、ジュネーブはヨーロッパに安全と安心を求めるお客様にとって安全な港であったのです。1800年代前半、ロンバー・オディエのパートナー達は、独立戦争後の新興経済圏である米国を強く信頼し、19世紀に米国で進行した産業革命に投資することで、お客様のポートフォリオを分散化する決断をしました。この初期の国際分散投資は、19世紀後半の激動の時代、そして20世紀前半の2つの世界大戦の間、お客様の資産を守り、増やすうえで大いに役立ちました。1990年代初頭からは、ESGリサーチ、サステナブル投資、コーポレート・サステナビリティのパイオニアとして活動、サステナビリティは、今後、お客様のリターンを高める最大の原動力の一つになると強く確信しています」



現在のジュネーブ本社(上)。本社は1858年に現在のジュネーブ市内のコラテリー通りに移転しました。

ロンバー・オディエにとってなぜ日本市場が重要なのか

「日本は、我々がヨーロッパ以外で最初に進出した市場の一つであり、その豊富な資産の蓄積と洗練された投資家層により、現在も非常に重要かつ有望な市場です。2023年版グローバル・ウェルス・レポートによると、日本は世界第3位の富裕層/超富裕層市場であり、日本におけるウェルス・マネジメント・サービスの発展には大きな可能性があります。日本の富裕層は、多様でグローバルな投資機会をますます求めるようになっており、我々の国際市場における豊富な経験がこの需要に応えられるでしょう」
「日本のお客様の傾向として、一つ目はポートフォリオ一任運用への関心が高く、長期的に資産を増やすために我々に資産運用を委託しています。日本の富裕層は、市場の不安定さや高齢化による社会福祉へのコミットメントといったダウンサイド・リスクから資産を守りながら増やすことの重要性に気付いています。二つ目に、ファミリー・ビジネスからの強い関心が見られます。ファミリー・ガバナンスや後継者問題、次世代の教育、慈善事業、移住などの問題に関するファミリー・サービスやアドバイスは、起業家やファミリー・ビジネスに代表される日本のお客様から高い評価を得ています」

プライベート・バンクの持つお客様に対する最も重要な使命

「我々にとって、お客様は最優先事項です。私たちの使命は、起業家とそのご家族にとって、現在だけでなく、世代を超えて長期的に頼りにされるプライベート・バンカーとなることです。我々は、世界の混乱からお客様を守り、資産を増やし、次の世代に引き継ぐことができるよう安全な場所を提供します。我々ロンバー・オディエは、独立性をモデルの中心に据えたプライベート経営の金融機関です。我々はパートナーシップ制によって運営されています。6人のマネージング・パートナーがオーナー兼マネージャーとして、異なる視点やスキルからの専門知識を持ち、常に課題を考慮しています。我々は市場の圧力にさらされることなく、完全にお客様中心の経営を行っています。つまり、お客様の利益は組織の最高レベルで、私たち自身の利益と一致しています」
「プライベート・バンクとして、我々はお客様との間に信頼関係を築き、革新的なソリューションを提供しています。そのすべての取引において透明性を確保することを優先しています。私たちの目標は、お客様の経済的な幸福に焦点を当てながら、様々なライフステージや経済サイクルを通じてお客様を導き、信頼できるパートナーとなることです」

アジア全域におけるウェルス・マネジメントの状況

「アジア全域におけるウェルス・マネジメントの状況は以下にあげる4つの主要なトレンドによって、かつてないほどの変化を遂げていると考えています」
〇アジアにおける資産の大移転:APACの約70,000の富裕層では、今後10年間に約2兆5000億米ドルの資産が移転する予定。
〇オンショアリゼーション 域内の富が増大していることからも、ローカル市場からグローバルな投資機会にアクセスする必要性が高まっている。
〇サステナビリティ・レボリューション 投資機会の新たな源泉を生み出し、リターンの拡大とポートフォリオ・リスクの低減につながっている。
〇不確実性が高まっている現在の不安定なマクロ環境では、顧客は最も安全な金融センターおよび金融機関を求めている。
「我々プライベート・バンクは、日本を含む地域や法域を越えた富裕層の包括的なニーズを満たすため、これらの変化に適応できなければならないと考えます。そんな中でリスク管理に基づくリターンの獲得、ポートフォリオの分散化およびサステナブル主導の運用を求める社会的意識の高い富裕層の増加に伴い、現在の環境下、長期的に彼らの資産および投資を守るための道しるべが必要だと感じています」

日本の富裕層および投資市場の持ついくつかの課題

「現在はマクロの不確実性、金利の上昇、地政学的緊張が続く中、過去の伝統的な投資アプローチでは、投資家が資産を守り、今日の市場機会から恩恵を享受することは難しいと考えます。つまり、リスクを軽減しボラティリティに対応するためには、ポートフォリオの分散化がこれまで以上に重要になります。コアとなる戦略としては、伝統的なマルチアセットのリスクベースの戦略、代替資産として、プライベート・アセットやポートフォリオの強靭性と持続可能性を高める、サステナビリティに焦点を当てた戦略などです。日本では長期的に資産を守り、増やすことがこれまで以上に難しくなっています。20年にわたる超低金利および最近の円安により、日本の投資家は利回りや投資機会を海外に求めるようになりました。グローバルな投資機会を探求し、ポートフォリオにサステナブルな手法を組み入れることを以前に増して求めており、さらに、プライベート・アセットへの関心も高まっています。日本の富裕層向けの資産管理の必要性は喫緊の課題であり、我々は、228年以上にわたる資産管理経験を活用し、総合的な運用ソリューションおよびファミリー・サービス・アドバイザリーの提供により、長期的に日本での資産運用のニーズに貢献、資産を守り、増やすお手伝いができると強く信じています」


新社屋は2024年末に竣工し、2025年初頭から稼働します。

ピエール・イヴ・ロンバー
Pierre-Yves Lombard

ピエール・イヴは、ロンバー・オディエに入社する以前は、ゴールドマン・サックスのロンドン・オフィスにて運用部門のエグゼクティブ・ディレクターとして、国際的な超富裕層(UHNW)の顧客に投資助言を行い、また、顧客資産の管理運用を担当してきた。ロンバー・オディエ入社後、アジア・プライベート・クライアント・ユニットの副代表として、日本を除くアジア全域でのプライベート・バンキング業務の成長・拡大を推進している。スイスのサンクトガレン大学においてビジネスと金融学の修士号を取得。公認証券アナリスト(CFA)および英国CFA協会会員、ハーバード・ビジネス・スクールにてエグゼクティブMBAプログラム(PLDプログラム)を修了。IMD(International Institute for Management Development)のエグゼクティブ・エデュケーション・カスタム・プログラムの一つである「MBA(Management of Management)」も修了している。