異色の経歴を持つフランチェスコ・マッツィ氏。イタリア料理のシェフとして世界を舞台に活躍してきた経験、そしてシェフとしての研ぎすまされた感性は、彼の創造するアート作品に確固として息づき、観る者に驚きと感動をもたらしている。料理と芸術の融合というアーティストとしての哲学は、この先、マッツィ氏をどこへ導こうとするのか。彼の創作の礎となる考えと今後の取り組みを紹介する。

華麗なるアートと料理の融合
芸術は人生を豊かに、人を幸せに

ファインアートのアーティストとしてのフランチェスコ・マッツィ氏のビジョンは、国際的なファインダイニングでのシェフとしての経験に根ざしている。哲学である「料理と芸術の融合」は、まさにシェフとアーティスト双方の第一線で活躍してきた者の真骨頂でもあり、同時に異端のアーティストと目される所以ともなっている。
フランチェスコ・マッツィ氏について語る上で、アーティストとしての核心を的確についたのが、イタリアの元文化省国務次官であるヴィットリオ・スガルビー氏の言葉だ。彼はマッツィ氏の作品を目にした際、「マッツィは絵画の金細工師であり、優れた技術的・芸術的感性を持つ物質と色彩の細密画家であり、現代に投げ込まれた古代からの職人兼芸術家だ」と評価したのである。
空間と調和するトータルアートとして評価されるその作品は、「3D FRAME PUSH-UP」という自ら考案した独自の技法を駆使して形作られる。純金や純銀といった希少な素材を油絵具と調合し、厚みのあるキャンバスに浅浮彫の技法で花や植物といった躍動する自然の姿、神話や伝説の荘厳な世界を描き上げる。それらは浮かび上がるように立体的にフレームの外にまで展開し、三次元性と圧倒的な臨場感が観る者を惹きつけるのだ。この高度で精密な制作過程を経て作品が生み出されることが、卓越した技術と高い感性を併せ持つ金細工師、また、職人兼芸術家と称される理由でもあるわけだ。
「芸術は人生を豊かにし、その究極の機能は人々をより幸せに導くことです」と語るマッツィ氏。芸術作品には記憶があり、人間のような経験を積むことができると信じているとも言う。こうした考えのもと、神話や伝説、万物の自然現象からインスピレーションを受け、独自の記憶と強さを持つ作品づくりに没頭する日々が続く。昨今、活動拠点として大阪と北トスカーナに「MAZZI FINE ART GALLERY」を立て続けにオープンし、さらにアートと料理、そして映像を巧みに組み合わせたMAZZI FINE DININGという取り組みにも力を入れている。そこではマッツィ氏の哲学である「料理と芸術の融合」をまさに実践する場として、マッツィ氏の料理レシピによるコースディナーとアートを同時に堪能することができるという。五感に訴えかけ、感覚を高める美的な体験。マッツィ氏の世界観に浸り、とろけるように幸せなっていく感覚を堪能してみたい。